日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 活動的火山

2016年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、前田 裕太(名古屋大学)、座長:宮縁 育夫(熊本大学教育学部)、阪上 雅之(国土交通省 国土技術政策総合研究所 土砂災害研究部 土砂災害研究室)

14:45 〜 15:00

[SVC47-29] 阿蘇山2015年9月14日噴火後の細粒土砂の流出

*阪上 雅之1國友 優1鈴木 大和1 (1.国土交通省 国土技術政策総合研究所 土砂災害研究部 土砂災害研究室)

キーワード:阿蘇中岳、火山泥流、マグマ水蒸気噴火、火砕流

1.はじめに
一般的に火山が噴火すると,堆積した火山噴出物により,斜面の浸透能が低下し,わずかな降雨でも火山泥流が発生することがあり(例えば,有珠山1977年噴火や雲仙1991年噴火など),防災上注意が必要である.一方,噴火すれば必ず火山泥流が発生しやすくなるというわけでもない(例えば,厚井ほか(2013)).このため,火山泥流が発生しやすい環境場が形成されているか否かの判断指標の確立が求められている.藤田ほか(2012)は,破砕度が高くなる水蒸気噴火,マグマ水蒸気噴火時や降雨時など,細粒分を火口近傍の山腹斜面に降下・堆積させるようなメカニズムが働く場合に,火山泥流が発生しやすくなる可能性があることを指摘した.細粒分を火口周辺に降下・堆積させるメカニズムが働く現象としては,藤田ほか(2012)が指摘する現象のほか,火砕流(火砕サージ)を挙げることもできる.そこで筆者らは,2015年9月14日,1979年以来36年ぶりに比較的小規模ではあるもののマグマ水蒸気噴火及び火砕流の発生が確認された阿蘇中岳火口の周辺流域において,細粒土砂の流出の有無を確認すべく調査を行ったので,その結果を報告する.
2 調査内容及び結果
10月28日(10月期),11月25-27日(11月期),12月17-18日(12月期)の3時期に阿蘇中岳周辺の4流域(泉川,西岳川,仮川,倶利伽羅谷川)において現地調査を行い,流域内の土砂堆砂状況の確認などを行った.その他,泉川,西岳川,倶利伽羅谷川では流出土砂の採取を行い,粒度分析などを行った.現地調査の結果,泉川,西岳川では10月期時点で,仮川,倶利伽羅谷川では11月期時点で,細粒分に富む灰色の泥状堆積物(以下,細粒土砂)が,一般的に阿蘇山周辺の渓流に堆積している黒色火山砂を数mmから数cm程度の厚さで薄くコーティングするように覆っているのを確認した.細粒土砂の代表粒径(D50)は0.005〜0.016mmとシルト分に富むものであった.泉川,西岳川では堆積物の粘性は高く,泥状であった.仮川及び倶利伽羅谷川では堆積物の一部は調査実施時点(12月18日)で既に固結し,スコップでは採取できないほどの硬さであった.流出してきた細粒土砂は,粘性が高く,乾燥すると固結する特徴を有していることがわかった.次に,細粒土砂の流出と降雨の関係を確認した.泉川,西岳川で細粒土砂の流出を確認した10月期の調査時点以前の最大時間雨量は26mm(10月1日22時:熊本県「草千里」雨量観測所)であった.したがって,これらの流域では26mm/h未満の降雨により細粒土砂が流出したものと考えられる.一方,仮川においては,11月18日正午頃に,前日から当日にかけての時間雨量最大25mm中(熊本県「倶利伽羅谷」雨量観測所)に砂防堰堤工事現場に多量の細粒土砂の流出があったこと,また近年このような細粒土砂の流出は経験したことがなかったことを,工事施工業者である翔栄建設㈱に対するヒアリングにより確認した.仮川流域では,9月14日の噴火以降,9月17日に最大時間雨量34mm(熊本県「倶利伽羅谷」雨量観測所)を観測していたが,その際は細粒土砂の流出はなかった.
3 考察
今回実施した調査により,火砕流(火砕サージ)の影響を受けた4流域全てにおいて細粒土砂の流出があり,またその土砂流出はこの地域としては年数回程度の降雨により発生していることを確認した.2014年から2015年9月までの代表的な3回の噴火での火山灰分布範囲(熊本大学,2015)を見ると,4流域いずれも降灰の影響を受けており,また2015年5月3日にはシルト以下の細粒成分に富む火山灰が降灰しているが,この期間中に本報告で紹介したような細粒土砂の流出は確認されていない(熊本県阿蘇地域振興局及び,翔栄建設㈱ヒアリング結果).このことから,9月14日に火砕流(火砕サージ)が火口近傍に流下したことで火口周辺に細粒な火山灰が供給され,流域の環境場が変化し,細粒土砂が流下したことが推測される.このことは,今後細粒火山灰が火口近傍に堆積した際には,流域内の浸透能を下げる可能性を含んでおり,例え小中規模の噴火であってもマグマ水蒸気噴火及び火砕流(火砕サージ)が発生した後は,十分に気をつける必要があることを示唆している.