日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 活動的火山

2016年5月26日(木) 13:45 〜 15:15 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、前田 裕太(名古屋大学)、座長:金子 隆之(東京大学地震研究所火山噴火予知研究推進センター)、鈴木 由希(早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 地球科学専修)

13:45 〜 14:00

[SVC47-31] 十勝岳における簡易型マルチガス観測(続報)

*岡本 理沙1橋本 武志1 (1.北海道大学大学理学院地震火山研究観測センター)

キーワード:十勝岳、火山ガス

はじめに: 火山ガスの組成や放出率とそれらの時間変化は、火山の地下で起こっている脱ガス過程や山体内部の構造を推定する手がかりとなる。いくつかのガス種について成分比を簡便に測定する方法として、マルチガスと呼ばれる装置が用いられている(例えば,Shinohara, 2005)。我々は,市販の携帯型ガス濃度計を組み合わせることで、簡易型のマルチガス装置としての利用を試み、十勝岳と樽前山で検証を行ってきた。これまでのところ、他機関の測定データと比較しても矛盾のない結果が得られている(岡本・他, 2015:JpGU)。
十勝岳では、道総研地質研究所や気象庁のGNSS観測によって、2006年以降62-2火口近傍の膨張が捉えられていたが、2015年5月から8月にかけて地盤変動に局所的な加速がみられた。また、62-2火口の南側に位置する振子沢噴気孔群の拡大や、62-2火口底での湯沼の形成など、熱活動に変化が起こっている。我々は、火口ごとにガス組成に違いがみられるかどうかや、2014年9月の測定結果と比較して変化がみられるかどうかに着目して、2015年7月と9月に簡易型マルチガスによる再測定を行った。
測定方法: 本研究では3種類のガス濃度計(SO2、H2S、CO2)を用いた。それぞれの濃度計の測定レンジはSO2:0-100ppm、H2S:0-100ppm、CO2:0-9999ppmであり、分解能はそれぞれ、SO2:1ppm、H2S:0.1ppm、CO2:1ppmである。時定数のもっとも長いCO2濃度計に合わせるために,H2SとSO2の時系列に1分間の移動平均処理を施すことで装置ごとの応答性の違いに対応した。すべての濃度計の測定間隔を2秒に設定し、噴煙の中を、ガスマスクを付けて歩行することで測定を行なった。また、H2S及びSO2濃度計については感度校正を行い、相互干渉の補正を施した。なお、大正火口については、噴煙の大部分が地表付近を這うようにしてほぼ定常的に流れているため、噴煙断面の濃度分布をマッピングし風速を乗じることによって放出率も推定した。
測定結果と考察: 測定は、大正火口、62-2火口、振子沢噴気孔群の3箇所で行なった。濃度ピーク前後のデータを用いてガス種間の相関図を作成し、その傾きから成分比(モル比)を求めると、大正火口の成分比は、SO2/H2S:約6、CO2/H2S:約5、CO2/SO2:約1であった。一方,62-2火口ではCO2/SO2:約0.5、振子沢噴気孔群ではCO2/SO2:約0.4であった。なお、62-2火口と振子沢噴気孔群では、噴気にH2Sはほとんど含まれていないことも判明した。各火口のガス成分比は2015年7月と9月でほぼ同様であり、2014年と比較しても有意な変化は認められない。そのため、この1年間で脱ガス機構に影響を与えるような変化は起こっていないと考えられる。一方、上記の方法で我々が2015年に測定した大正火口からのSO2放出率は約6~7 t/dであった。気象庁のSO2放出率観測(DOAS法)によれば、ほぼ同時期における火口域全体の放出率は100-200 t/d で、前年度と比べて約2倍になっていた。このことから、2015年におけるSO2放出の大半は62-2火口、及び新たに拡大した振子沢噴気孔群からの寄与と考えられる。大正火口とそれ以外で組成比が有意に異なるという結果については、火口域地下浅部の熱水系の関与が疑われるが、現時点ではすべての測定結果を合理的に解釈できるモデルを得るに至っていない。