日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC47] 活動的火山

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*青木 陽介(東京大学地震研究所)、前田 裕太(名古屋大学)

17:15 〜 18:30

[SVC47-P08] 草津白根火山2014年膨張変動に伴う流体輸送過程~DD法による精密震源決定からの示唆

*桑原 知義1寺田 暁彦2行竹 洋平3神田 径2小川 康雄2 (1.東京工業大学理工学研究科、2.東京工業大学火山流体研究センター、3.神奈川県温泉地学研究所)

キーワード:草津白根火山、微小地震、DD法

草津白根火山では,山頂火口に相当する白根火砕丘湯釜火口湖の地下浅部を震源とする微小地震の顕著な群発活動が2014年3月から同8月まで継続した.同時期には地殻変動や熱消磁,火山ガス組成の変化も観測されており,これらの変化は地下浅部へ新たに熱水が蓄積されたために引き起こされたと考えられる.このような流体蓄積が地下浅部構造とどのような関係にあるかを明らかにするには,これら微小地震の震源を精度よく決めることが重要である.そこで,Double Difference(DD)法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)による相対震源決定を行った.本研究では,初期震源を与えるために,まず二層構造を仮定した場合の最適な地震波速度構造を求めた.併せて,過去に実施された地震波構造探査や比抵抗構造探査と比較することで,この速度構造の妥当性を検討した.

草津白根火山の基盤をなす新第三紀の火山岩類の上面深度は,海抜1,000 – 2,000m前後にあると考えられており(宇都・他,1983),これは微小地震の震源域(松田・他,2014)と同程度かやや浅い.この地震波速度境界を考慮した震源決定を行なうために,表層の下に,古い基盤岩類を仮定した非線形最小二乗法に基づく震源決定プログラム(桑原・他,2015)を作成し,走時残差を最小とする層境界深度と各層の地震波速度を最適構造として求めた.

解析の結果,境界深度標高は1500 m,上層と下層のP波速度はそれぞれ2.5 km/sおよび4.8 km/sと推定された.これらの速度は,爆破探査に基づく鬼澤・他(2005)とTakeda et al. (2004) の結果と矛盾しない.また,層境界深度は,白根火砕丘地下浅部に広がる低比抵抗領域(小川・他,未公表資料)の下面深度に相当している.すなわち,地震波速度の不連続は,熱水変質の程度を反映したものと考えられる.一方,擬似反射記録法を用いた筒井・他(2008)は,新第三紀の基盤岩の上面深度を標高1,700 m前後と推定し,地震波速度の不連続 1500 mとは異なる.この不一致は,風化または熱水変質が進んだ結果(宇都・他,2004),地震波速度が低下したため,新期の未固結な噴出物と基盤との速度不連続が目立たないためと考えられる.

以上の速度構造を用いて,手動検測に基づき初期震源位置を推定した.用いた観測点は火口から1 km以内に設置されており,3箇所のボアホール型を含む.本研究では,2013年の8月から2014年8月までに発生した約15,000個の地震のうち,マグニチュードが -1.3以上,かつ全ての観測点でP波が読めているものを選んだ.ここで,S波は概ね3箇所で検測されている.手動検測値から求めたDouble Differenceデータは,P波,S波に対してそれぞれ9,208および 4,198ペアであった.さらに,本研究では波形相関を用いてDouble Differenceデータを求め,P波,S波それぞれ86,089および37,413ペアを得た.

再決定された震源は218個である.多くの地震は,湯釜火口湖の中央部直下の標高約950 m から1000 mのごく狭い範囲(以下、領域A)に集中する.領域Aは発生頻度が最も高く,群発地震前から認められ,群発期間中も活動が継続している.また,時間とともに位置が変化する地震活動が新たに見つかった.

震源が時間とともに変化する震源クラスターは,領域Aより浅部,または深部など,その位置に基づき数グループに分類できる.例えば領域Aよりも浅部については,同5月以降,標高1,100 mから1,200 mで発生するようになった.水平位置でみると,湯釜火口湖の中央部,南東部,北東部の3つのクラスターが認識でき,発生時期が棲み分けているように見える.この領域では,群発地震開始前には殆ど地震が発生していない.また,これら領域で地震が発生し始めた同5月は,地下の加熱を示す磁場変動や,湯釜水温の上昇が観測されている.傾斜計に基づく地下浅部への流体蓄積率も,同5月がピークであった.以上のことから,湯釜地下浅部で5月以降に始まった地震活動は,深部から供給された流体の浅部への貫入,あるいは亀裂生成を反映したものと考えられる.

謝辞 地震観測システムの改善にあたり,気象庁の鬼澤真也博士,秋田大学の筒井智樹博士,宮町凜太郎氏のご支援を頂きました.ここに記して深く感謝します.