17:15 〜 18:30
[SVC47-P15] 箱根火山で推定された異方性媒質のクラックサイズに関する検討
キーワード:異方性構、S波スプリッティング、箱根火山
はじめに
2015年6月末に箱根大涌谷で発生した水蒸気噴火の際に観測された開口クラックの活動などから、火山帯内部には多くの亀裂があり、それらを利用して熱水などが移動・上昇したと考えられている(例えば、本多他2015)。本報告では、S波スプリッティング解析で得られたパラメータの周波数領域での信頼区間を調べ、地下の亀裂系の特徴的なサイズについての考察を行う。
データと手法
箱根カルデラ内に設置された定常観測点の2009年以降のデータを用いて解析を行った。マグニチュード0以上の地震について、2-8Hzのバンドパスフィルタをかけた速度波形を用いて、S波スプリッティング解析を行い、分離したS波の時間差Dtと速いS波の振動方向LSPDを推定した。得られたパラメータについて、Mizuno et al (2001)の手法を用いてクラックサイズの上限を推定する。具体的には、得られたパラメータを生波形に適用してスプリットしたS波を元に戻し、二つの波形の位相差スペクトルを計算した。位相差が十分に小さい周波数帯では、DtとLSPDが共通であると考えられ、クラックサイズ<<波長であるとすれば、位相差がフラットになる帯域の高周波側の限界からクラックサイズの上限についての推定が可能である。位相差の10ptごとの移動平均を計算し、±0.25rad以下、かつその窓での分散が0.1以下である場合、十分に位相差が小さいとした。スプリッティングパラメータが得られたすべてのイベントについて解析を行った結果、10Hz程度まで位相差が0になる観測点が多かった。また、大涌谷および金時観測点では他に比べてこの区間が高周波側に伸びないこと、大涌谷では8Hz付近に谷(位相差が大きい帯域)が存在することがわかった。
考察
全体として、位相差がフラットになるのは10Hz付近であることから、箱根におけるクラックの特徴的なサイズは200~300m程度と考えられる。金時観測点でフラットな区間が他の観測点に比べて高周波側に伸びないのは、金時観測点に至る波線が比較的サイズの大きなクラックが存在する領域を通過している可能性を示している。金時観測点は、箱根カルデラの北端付近に位置し、地震波の多くは大涌谷付近を通過して観測点に至る。b値の空間分布(Yukutake et al, 2013)をみると、大涌谷の直下数キロ付近にb値の低い領域が存在する。b値が低いということは、その領域での断層サイズが比較的大きい可能性があり、これが金時観測点で位相差がフラットな区間が高周波側に伸びない原因のひとつと考えられる。大涌谷観測点の8Hz付近に落ち込み(谷)は、この周波数帯で信号を乱すなんらかのノイズが混入していることを示唆しているのかもしれない。詳細については今後の課題である。
本研究の一部は,文部科学省の「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」による支援を受けました。
2015年6月末に箱根大涌谷で発生した水蒸気噴火の際に観測された開口クラックの活動などから、火山帯内部には多くの亀裂があり、それらを利用して熱水などが移動・上昇したと考えられている(例えば、本多他2015)。本報告では、S波スプリッティング解析で得られたパラメータの周波数領域での信頼区間を調べ、地下の亀裂系の特徴的なサイズについての考察を行う。
データと手法
箱根カルデラ内に設置された定常観測点の2009年以降のデータを用いて解析を行った。マグニチュード0以上の地震について、2-8Hzのバンドパスフィルタをかけた速度波形を用いて、S波スプリッティング解析を行い、分離したS波の時間差Dtと速いS波の振動方向LSPDを推定した。得られたパラメータについて、Mizuno et al (2001)の手法を用いてクラックサイズの上限を推定する。具体的には、得られたパラメータを生波形に適用してスプリットしたS波を元に戻し、二つの波形の位相差スペクトルを計算した。位相差が十分に小さい周波数帯では、DtとLSPDが共通であると考えられ、クラックサイズ<<波長であるとすれば、位相差がフラットになる帯域の高周波側の限界からクラックサイズの上限についての推定が可能である。位相差の10ptごとの移動平均を計算し、±0.25rad以下、かつその窓での分散が0.1以下である場合、十分に位相差が小さいとした。スプリッティングパラメータが得られたすべてのイベントについて解析を行った結果、10Hz程度まで位相差が0になる観測点が多かった。また、大涌谷および金時観測点では他に比べてこの区間が高周波側に伸びないこと、大涌谷では8Hz付近に谷(位相差が大きい帯域)が存在することがわかった。
考察
全体として、位相差がフラットになるのは10Hz付近であることから、箱根におけるクラックの特徴的なサイズは200~300m程度と考えられる。金時観測点でフラットな区間が他の観測点に比べて高周波側に伸びないのは、金時観測点に至る波線が比較的サイズの大きなクラックが存在する領域を通過している可能性を示している。金時観測点は、箱根カルデラの北端付近に位置し、地震波の多くは大涌谷付近を通過して観測点に至る。b値の空間分布(Yukutake et al, 2013)をみると、大涌谷の直下数キロ付近にb値の低い領域が存在する。b値が低いということは、その領域での断層サイズが比較的大きい可能性があり、これが金時観測点で位相差がフラットな区間が高周波側に伸びない原因のひとつと考えられる。大涌谷観測点の8Hz付近に落ち込み(谷)は、この周波数帯で信号を乱すなんらかのノイズが混入していることを示唆しているのかもしれない。詳細については今後の課題である。
本研究の一部は,文部科学省の「都市の脆弱性が引き起こす激甚災害の軽減化プロジェクト」による支援を受けました。