日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC48] 火山・火成活動と長期予測

2016年5月22日(日) 13:45 〜 15:15 コンベンションホールA (2F)

コンビーナ:*及川 輝樹(国研)産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、石塚 吉浩(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、座長:安井 真也(日本大学文理学部)、南里 翔平(首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 地理環境科学域 地形・地質学研究室)

15:00 〜 15:15

[SVC48-14] 小笠原諸島・西之島溶岩流に溶岩チューブ及び溶岩チューブ洞窟は存在するか?

*本多 力1 (1.火山洞窟学会)

キーワード:溶岩チューブ洞窟、西之島、安山岩溶岩流

[はじめに] 安山岩質溶岩から構成される西之島は2013年11月20日以来噴火を継続している。先の1973年噴火や今回の噴火のさまざまな報告には「溶岩トンネル(溶岩チューブ)」の存在について言及されているが1),2),ここではその可能性についてビンガム流体としての流体力学モデルに基づき検討してみた。 なぜなら、玄武岩溶岩流では溶岩トンネル(溶岩チューブ)は明らかに存在しているが、一方、安山岩溶岩流では溶岩トンネル(溶岩チューブ)は存在しないと言われており今まで世界では報告されていないからである3),4)
[溶岩チューブと空洞(溶岩チューブ洞窟)形成の流体力学モデル] 図1に検討モデルを示す。Mはヘッド高さ(マグマ圧)、Lは溶岩チューブ長さ、Rは溶岩チューブ半径、αは溶岩チューブの傾斜角である。(A)火口から溶岩を噴出した溶岩が斜面を下り溶岩チューブを形成する。マグマ圧と重力(強制流)で流動。その後2つの状況(B),(C)を考える。(B)溶岩の供給が止まり、チューブ内の溶岩の流動も停止し、チューブは閉塞された状態となる。(C)溶岩の供給が止まるが、チューブ内の溶岩は重力流(自由流)として流出できる場合はチューブ内に空洞を形成する。
溶岩チューブが形成されるためには溶岩チューブの中にある溶岩が流動する必要がある。一方、溶岩チューブ洞窟が形成されるためには溶岩チューブの中にある溶岩が重力によって抜け出る必要がある。流動する(A)、あるいは抜け出る(C)ためには流れの場の最大(すなわち壁面の)せん断応力が溶岩の降伏強度より大きくなければならない。したがってその限界条件は、流れの場のせん断応力=溶岩の降伏強度、となる。この条件は(A)で溶岩がマグマ圧と重力(M/L>0)で流動する場合:τW=(ρgsinα+ρgM/L)R/2>fB, (C)で溶岩が重力のみ(M/L=0)で流動する場合: τW=(ρgsinα)R/2>fB, 傾斜角度αとビンガム降伏値fBがわかれば限界空洞高さH=2Rが与えられる。ここでτWはチューブ壁面のせん断応力、ρは溶岩密度、gは重力加速度である。
[溶岩チューブと溶岩チューブ洞窟の有無の推定] 今回の噴火も珪酸重量分率58~60%前後の安山岩と仮定すると、Hulme5)の珪酸重量分率とビンガム降伏値の相関線からビンガム降伏値は5x104~105N/m2,とあたえられる。 斜度は国土地理院の「現火口付近最高点での断面比較(2013.12.4~2015.7.28.)」より6度と推定した。 M/L=1.0及び0.5、さらにM/L=0について計算した推定限界溶岩チューブ高さを表1に示す。M/L=0の重力流の場合、溶岩チューブ洞窟の形成は不可である。一方M/L>0のマグマによる加圧+重力流の場合、パラメータによって溶岩チューブ形成の可能性はある(表1)。モデルからの推定をまとめると以下である:
(1)安山岩溶岩流の場合その高いビンガム降伏値のために、十分なマグマ圧が付加できる閉じた流路系でないと溶岩チューブはできない。
(2)溶岩チューブが形成されたとしてもマグマ圧が除圧された溶岩チューブからは溶岩は抜け出せず、溶岩チューブ洞窟は形成されない。
[おわりに] 西之島溶岩のSiO2の重量%や温度が従来の安山岩とそれほど違わないのであれば、溶岩チューブ洞窟はおそらく発見できないであろう。ただし、噴火終了後、溶岩チューブ洞窟になれなかった溶岩チューブは潜在している可能性がある。より詳細なデータ(溶岩流厚さ、溶岩チューブ長さと高さ、地形の斜度、溶岩の物性値)が必要である6)。噴火終了後、西之島に上陸して行う実地検証が期待される。溶岩トンネル、溶岩チューブの名称を使う場合の定義の明確化も必要である。分類としてActive lava tube,filled(plugged)lava tube 及びDrained lava tube(lava tube cave)の使用を提案する。
[参考文献]
1)青木斌,小坂丈予(1974):海底火山の謎−西之島踏査記,p66,東海大学出版会
2)森下泰成,小野智三,濱崎翔五,高橋日登美,野上健二(2015):日本火山学会2015年度秋季大会講演予稿集,P85,p183
3)守屋似智雄(1983):日本の火山地形,p9,東京大学出版会
4)本多力,ジョン・テインズレイ(2015):日本火山学会2015年度秋季大会講演予稿集、B3-03,p79
5)G.Hulme(1974):Geophys.J.R.Astr.Soc.,vol39,p361
6)本多力(2015):ケイビングジャーナル、No.53,p24