日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC48] 火山・火成活動と長期予測

2016年5月22日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*及川 輝樹(国研)産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、長谷川 健(茨城大学理学部地球環境科学コース)、三浦 大助(一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)、石塚 吉浩(産業技術総合研究所活断層・火山研究部門)、下司 信夫(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

17:15 〜 18:30

[SVC48-P03] カルデラ噴火に伴う低温かつ希薄な火砕性密度流:十和田火山・八戸火山灰の例

*野中 建太1宮本 毅2 (1.東北大学理学研究科、2.東北アジア研究センター)

キーワード:十和田火山、八戸火山灰、水蒸気プリニアン噴火、カルデラ形成噴火、希薄な火砕性密度流

八戸火山灰と八戸火砕流堆積物は、十和田カルデラ形成期最後の活動である噴火エピソードL(13,000 b.p.y.)の噴出物である。十和田カルデラ東麓に広域に分布する八戸火山灰は、細粒火山灰層と軽石層の互層から成り、特に細粒火山灰層は外来水の関与を示唆する火山豆石を含む。一方、噴火エピソードL開始時には、それ以前の二度のカルデラ噴火によって十和田カルデラの前身の陥没地形がすでに存在していたと推定され、大量の外来水の存在が示唆される。これに基づき早川(1983)は、火道を上昇中に発泡破砕した珪長質マグマと大量の湖水の相互作用により水蒸気プリニアン噴火が発生したとした。
従来、多くの水蒸気プリニアン堆積物は水を含む噴煙柱形成による降下堆積物であると考えられてきた(Self and Sparks, 1978;Smith, 1998)。八戸火山灰中の細粒火山灰層も、その分布と粒度の特徴から降下堆積物であると判断されている。しかし、水蒸気プリニアン堆積物では水の関与による凝集物の存在によりその定置過程の判断が難しい。さらにKoyaguchi and Woods(1996)は火道を上昇してきたマグマと外来水とが接触できる環境での噴火では、湿潤な噴煙柱の形成以外にも、マグマ-水比の変化により低温湿潤な火砕流の発生を示唆している。従って、本研究では八戸火山灰の野外調査に基づき、水蒸気プリニアン噴火による降下堆積物とされた細粒火山灰層の定置過程を再検討する。
今回の調査では給源である十和田カルデラの東側45kmまでの地域内において露頭記載を行った。その結果、先行研究と同じく細粒火山灰層は互層する軽石層とあわせて、6つのユニット(下位よりHP1~ 6)に区分できた。各ユニット内ではより複雑な層相の変化が見出され、特に、最下位の火山灰層HP1は上位(HP1b)と下位(HP1a)の2層に細分された。粒度分析では火山灰凝集物の存在のため、両者の定置様式を判断することは困難な結果が得られたが、層相と堆積構造によりHP1aとHP1bは明確に区別可能である。HP1bは細粒火山灰から成り、火山豆石を含む。また、堆積時の地形を一様に覆っており、上記の特徴から、従来通りHP1bは水蒸気プリニアン噴火による降下堆積物であると考えられる。一方、今回観察した地点においてHP1aは主に粗粒火山灰から成る薄層による弱く斜交した層理を示す。また、HP1aの全層厚は火口から20km以遠において最大で50cmであり、噴火開始時の地形面の低所において厚くなる。そして、火口から35km以内の低高度の原地形面にはしばしば泥炭層とともに横倒しの樹幹を伴い、HP1aはそのような樹幹が造る数十cmの起伏を埋め、ほぼ水平な上面を形成している。樹幹による起伏が層厚を上回る場合は、その起伏に対してHP1aは非対称な堆積構造を示す。以上のHP1aが示す堆積構造は、HP1aが流れ堆積物であることを、さらに、弱く斜交した薄層理は複数の希薄な火砕性密度流(PDC)の発生を示唆している。また、最も遠い45km離れた地点でも同様な特徴を示し、HP1aは遠方まで流下したといえる。加えて、火口から25km離れた地点では未炭化な木片が含まれているが、一方で火山豆石などの液体の水の関与を示す証拠は見出されていない。以上のことからHP1aを形成した希薄なPDCは、流れの途中(~25km)において炭化温度を下回る比較的低温な状態(ただし、>100°C)で堆積したと判断され、この低温な流れの発生に外来水が関与した可能性が高い。先行研究では八戸火山灰の分布範囲は十和田カルデラの東麓に限られることから、この希薄なPDCは指向性をもつ発生機構により生じたのかもしれない。
一般にHP1aと同様な希薄なPDCとしてマグマ水蒸気噴火ではサージ堆積物が認められるが、その分布範囲は火口から最大でも数kmに限られ、規模が全く異なる。HP1aと同様に比較的遠方まで流走した希薄なPDCとして、7.3 ka鬼界カルデラ噴火Unit Bl(Maeno and Taniguchi, 2009)、12 ka Neapolitan Yellow Tuff eruption LM1(Wohletz et al., 1995)、160 ka Kos Plateau Tuff eruption Unit B(Allen and Cas, 1998)、7.6 Ma Akdag-Zelve ignimbrite eruption Upper / Lower surge series(Schumacher and Mues-Schumacher, 1977)などが挙げられる。これらを形成した珪長質噴火はすべて、浅海域あるいは陸水域で起きたカルデラ形成噴火である。希薄なPDCは大規模火砕流噴出に先行して発生し、いずれの噴火でも希薄なPDCの発生の要因として、火口における外来水の関与が示唆されている。つまり、浅海域あるいは陸水域で起きるカルデラ形成噴火初期における希薄なPDCの発生は普遍的な現象といえるかもしれない。各噴火の希薄なPDCの層相は多様であるが、これは火口におけるマグマ-水比の違いに起因して、多様な層相が形成されることを示唆している。