日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC49] 火山現象の即時理解:地球物理・物質科学観測と物理モデルの統合

2016年5月24日(火) 10:45 〜 12:10 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:*奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

11:00 〜 11:20

[SVC49-08] 測地データと火道流モデルの比較

★招待講演

*西村 太志1 (1.東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

キーワード:火道流モデル、測地データ

1980年代に始まる火道流モデルは、岩石学的分析や実験的結果に基づくミクロスケールの現象モデルを取り入れ、近年急速にその精緻化が進み、実際の噴火現象の巨視的振る舞いについての考察に広く使われてきた。本報告では、火道流モデルのアウトプットである火道やマグマ溜まりの流体の圧力の時空間変化について、それを実際の火山で検証できる測地データに着目し、火道流モデルと比較する。また、問題点と今後の展望を考察する。
高感度の傾斜計や歪み計、中長期変動に強いGPS(GNSS)などの測地観測のデータ解析からは、火山性圧力源の位置と大きさ、形状が理解される。ただ、一般的には測地観測点は地表にあるので深さ方向の分解能は必ずしも高くない。そのため、火道内部のマグマ圧の詳細な時空間分布を得ることは難しく、火道流モデルから期待される特徴的な圧力源変動に着目して考察する必要がある。
火道流モデルでは、マグマ上昇中の気泡成長によりマグマ全体の体積や上昇速度が増加することが予見されている。気泡成長はマグマ上昇に伴う減圧により加速的に進行することから、山体変形にも加速的な変化が期待される。一方、マグマ上昇中に気泡内のガスが系外に排出される際には上昇速度などの加速が起きないため、山体変形は穏やかに進むことが予測される。諏訪之瀬島やスメル山のブルカノ式噴火、セントへレンズ山や雲仙岳などの溶岩ドーム形成時等の測地データは、このような特徴に合致している。しかしながら、霧島山のブルカノ式噴火のように、噴火直前に圧力源が下方に移動するという報告もある。また、低粘性マグマの爆発現象であるストロンボリ式噴火は、気泡合体した大気泡が火道内を上昇するスラグ流モデルにより説明されることが多いが、噴火直前に観測される加速度的な傾斜変動は、このモデルでは再現できない。
噴火中の火道内では、下方の粘性流から浅部のガス流へと遷移する間に、マグマ破砕が起きると考えられる。粘性流とガス流では粘性が大きくことなるため、このマグマ破砕面の上方と下方では火道壁に及ぼされる圧力が大きく異なる。したがって、噴火が進行するに従ってマグマ破砕面が下方に伝播するとすれば、この移動を測地データで検知できることが期待される。例えば、桜島のブルカノ式噴火時の歪み記録を解析すると、マグマ破砕面の後退速度は約3.0m/sと見積もられる。ただし、火道流モデルにもとづくと破砕条件の空隙率が0.9以上の非常に大きな値となるという問題点がある。
以上のように、マグマ上昇や火山噴火が起きるその場での状態を測定できる測地データには、火道流モデルから予見される特徴を認めることができる。ただし、一方で、基本的特徴の不一致や定量的説明が困難な例もある。地下のマグマ供給系は複雑な形状をしており、そのサイズが大きいマグマ溜まりの効果が測地データには大きく出ている可能性がある。測地データとの比較の際には、浅部の火道内プロセスだけでなく深部プロセスも考えることが必要であろう。