日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC49] 火山現象の即時理解:地球物理・物質科学観測と物理モデルの統合

2016年5月24日(火) 10:45 〜 12:10 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:*奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

11:20 〜 11:35

[SVC49-09] 溶岩ドーム噴火:シナブン(インドネシア)vs. 雲仙普賢岳

*中田 節也1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:溶岩ドーム噴火、雲仙普賢岳、シナブン火山

現在インドネシア,スマトラ島のシナブン火山で進行中の溶岩ドーム噴火で観測された噴火の推移は,1990年から1995年まで起こった雲仙普賢岳噴火と類似している。この2火山の溶岩ドーム噴火の観測や噴出物の分析から得られたデータから,両噴火の類似点や相違点を抽出し,両溶岩ドーム噴火の推移や相違点を支配した基本的な要因が何であったかを検討する。
シナブン火山では2010年8月に有史最初の水蒸気噴火が発生し,2013年9月の再噴火後,ブルカノ式噴火を伴うマグマ水蒸気噴火を繰り返し,2013年12月末から山頂に溶岩ドームが成長し始めた。溶岩ドームは崩落を繰り返しながら成長し,長さ3kmにも達する溶岩流に成長した。溶岩崩落によって火砕流が頻繁に発生した。2014年9月頃から内成的成長をするようになり,2015年秋からは小規模なブルカノ式噴火に移行し,2013年の溶岩出現から2年経った現在も噴火を継続している。噴火に先立って,火山性地震の震源は時間とともに浅くなり,それと共に,山体膨張が次第に顕著になった。噴火開始と同時に膨張から収縮に転じ,収縮の割合は時間とともに小さくなった。溶岩供給率は初期の約6m3/sから時間とともにほぼ単調に減少した。約2m3/sを下回った頃から主に内成的成長になった。
一方,雲仙普賢岳では1990年に水蒸気噴火が発生し,その後マグマ水蒸気噴火を経て,1991年5月に溶岩ドームが山頂に出現し,成長と溶岩崩落(火砕流発生)を繰り返した。溶岩ドームは外成的成長と内成的成長を繰り返した。溶岩供給は,初期の約6m3/sを上限にして,時間とともに減少したが,大まかに2波観測された。溶岩供給率が約2 m3/sを下回ると溶岩ドームは内成的成長をした。噴火活動の最後に溶岩尖塔が出現した。火山性地震の震源は溶岩ドーム出現に向けて,西方から次第に山頂に近づき,時間とともに浅くなった。水準測量やGPS観測によると,噴火に先行して,山体が膨張し,噴火の開始とともに収縮し始めた。収縮の度合いは時間とともに減少し,噴出率の減少の仕方と類似した。
シナブン火山と雲仙普賢岳で発生した溶岩ドーム噴火では,いずれも,地下からマグマがゆっくり火口に接近すると共に,水蒸気噴火からマグマ水蒸気噴火を経て,溶岩ドーム噴火に至ったことで共通している。ただし,前者では溶岩ドーム噴火に先行して,噴煙高度が10kmに達するブルカノ式噴火が発生したことと,噴火の末期と考えられる現在,小規模なブルカノ式噴火が断続的に発生していることで異なる。
溶岩はシナブン火山では角閃石安山岩(SiO2量が58-60%)であり,雲仙普賢岳では黒雲母角閃石デイサイト(63-65%)であるが,石基ガラスの組成はSiO2量が75-80%といずれも高シリカ流紋岩である。ただし,磁鉄鉱などから推定されるメルトの温度はそれぞれ>900℃と<850℃である。揮発性成分量の違いはまだ明らかではないが,シナブン火山のマグマの方がより高温で結晶質であることが特徴である。このように,両溶岩ドーム噴火は爆発度に違いがあるものの,マグマの接近から噴火の推移まで大局的にはよく似ており,溶岩噴出率の変化が溶岩ドームの成長をコントロールしたと言える。また,より爆発的な噴火を伴い,長い溶岩流を形成したシナブン火山では,メルトがより高温であったことが影響しているかもしれない。