日本地球惑星科学連合2016年大会

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口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC49] 火山現象の即時理解:地球物理・物質科学観測と物理モデルの統合

2016年5月24日(火) 10:45 〜 12:10 コンベンションホールB (2F)

コンビーナ:*奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、青木 陽介(東京大学地震研究所)、座長:奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)

11:55 〜 12:10

[SVC49-11] 大量のマグマが短期間に地殻に蓄積する可能性の力学的検討

*藤田 詩織1清水 洋2 (1.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)

キーワード:巨大噴火、マグマ蓄積、地殻、ひずみ、応力、カルデラ

カルデラを形成し、100 km3以上のマグマを噴出するような巨大噴火の発生には地殻内への大量のマグマ蓄積が必要である。巨大噴火による数100~数1000 km3の一度のマグマ放出(町田・新井 1992) は地殻内に大量のマグマが蓄積されていたことを示す。さらに、Takada(1999)はマグマの噴出量と蓄積量の比の推定から、噴出量の数倍のマグマの地殻へ蓄積されている可能性を示している。カルデラ火山の噴出物量と噴火間隔(Salisbury et al, 2011)から巨大噴火のマグマ蓄積率は、平均的に0.001~0.01 km3/year程度と求められるものの、その蓄積過程はほとんど明らかにされていない(Jellinek & DePaolo, 2003)。
Druitt et al. 2012は40-60 km3のマグマを噴出しカルデラを形成したSantorini火山噴出物中の斜長石結晶の元素組成を調べ、噴火前の100年で数km3の大量のマグマが蓄積した可能性を指摘している。この場合のマグマ蓄積率は0.01~0.1 km3/yearであり、上記の平均的なカルデラ火山のマグマ蓄積率と比較して1オーダー大きい。100年程度の短期間にこの現象が起こると仮定すると、地表では大量のマグマ蓄積による大きな地殻変動が検知できる可能性があるため、火山噴火予測に重要である。しかし、岩石学的手法により導かれたマグマの短期間の急激な蓄積が、力学的制約を満たすかどうかについては検討されていない。そこで、本研究は短期間に地殻に蓄積できるマグマの上限値を推定することを目的とし、有限要素法(Marc Mentat, ver. 2012)による数値計算により推定を行った。Druitt et al. 2012が結論づけた約100年は地殻のMaxwell緩和時間に比べ十分に短いため、地殻は弾性体として扱った。
解析は、マグマだまりの壁に圧力を与えて膨張させ、マグマだまり周辺の歪みを計算して地殻の限界歪み10-4-10-5 (Rikitake, 1975) と比較する方法を用いた。仮説として、マグマ蓄積量に大きく影響するパラメータはマグマだまりの形状と、新たなマグマを蓄積する前にすでに存在していたマグマだまりの体積(以下、初期体積)だと予想した。そこで、100~2000 km3の異なる初期体積を持つ球状マグマだまりおよび回転楕円体形状のシルのモデルを作成し計算を行った。マグマだまりの上端の深さは全て姶良カルデラのマグマだまり深度である5 km (安田ほか,2015 )に固定した(したがって、中心の深さは初期体積により異なる)。地表面を自由表面、地殻は全て等方均質と仮定し、λ = μ = 40 GPa (茂木, 1957) の値を用いた。重力の影響は無視した。合わせて、比較のために解析解である球状圧力源モデル (Mogi,1958)とシルを表す開口断層モデル (Okada,1992)の二つについても同条件で計算を行った。これらのモデルはマグマ蓄積前のマグマだまり体積が限りなく小さい(初期体積~0)ことを前提に成り立つ。
解析の結果、最大剪断歪みは球状圧力源・シルの両方で初期体積の増加に伴って指数関数的に減少した。最も大きな歪みは初期体積~0の解析解モデルによる計算値であった。初期体積2000 km3のマグマだまりを膨張させた際の地表における最大剪断歪みをfig.a,bに示す。マグマだまりの形状によらず体積増加量と最大剪断歪みの値は比例したが、同体積で比較するとシルの方が切片が小さかった。そのため同じ体積のマグマが蓄積する場合、シルの方が地殻の限界歪みに達しにくく、球状圧力源より多くのマグマを蓄積できると考える。しかしながら、初期体積が2000 km3と大きくても体積増加量が約1 km3を超えると歪みは地殻の限界歪みを超えている。地殻の歪みの値が地殻の限界歪みを越えるとき、地殻は降伏して塑性変形する、あるいは脆性破壊が発生するため、地殻を弾性体として扱うことはできない。つまり、Druitt et al. 2012の主張する数km3のマグマが100年程度の短期間で蓄積する場合の地殻変動については、マグマだまりの形状および初期体積の有無に関わらず脆性破壊や塑性変形を考慮した議論が必要である。