日本地球惑星科学連合2016年大会

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ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC49] 火山現象の即時理解:地球物理・物質科学観測と物理モデルの統合

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、青木 陽介(東京大学地震研究所)

17:15 〜 18:30

[SVC49-P07] 石英に捕獲されたメルト包有物の非露出赤外分光分析法の開発

*吉村 俊平1中川 光弘1 (1.北海道大学・地球惑星科学)

キーワード:メルト包有物、石英、FTIR

<はじめに>
珪長質巨大噴火の発生メカニズムを理解するには,噴火準備段階におけるマグマの温度・圧力・共存する流体組成などの物理化学条件とその時間進化を詳細に解明することが不可欠である.Anderson et al. (1989)以来,石英のメルト包有物の揮発性成分分析が広く行われるようになり,噴火の引き金として,深部起源の高温流体が重要な役割を果たしている可能性が示唆されてきた(e.g., Bachmann et al., 2009).しかしながら,メルト包有物の両面研磨薄片の作製は難しく,データ数が少ないことから,いまだに流体挙動を詳細に解明し,その役割を明らかにするには至っていない.そこで我々は,簡便でかつ定量性の損なわれない方法として,メルト包有物をホスト石英ごと顕微FTIRで分析し,あとから石英のスペクトルを差し引くことで,純粋なメルトの赤外吸収スペクトルを取得する方法を開発することにした.これは,かんらん石のメルト包有物を非露出状態で分析する方法を開発したNichols& Wysoczanski (2007chem.geol)に倣ったものであり,本研究はその石英版である.
<原理>
赤外ビームがホスト石英とメルト包有物の両方を透過する場合,得られる合成スペクトルfは,両者の純粋スペクトルの線形和f=d(qz)*f(qz)+d(mi)*f(mi)になっていると考えられる.ここで,f(qz), f(mi)は,それぞれ石英とメルト包有物の単位厚さ当たりのスペクトルであり,d(qz), d(mi)は実効厚さである.合成スペクトルfには,石英の結晶構造を反映した特徴的なピークが含まれ,その吸光度は 石英の厚さd(qz)と比例関係にあると考えられる.そこで,あらかじめこの関係を確立しておけば,合成スペクトルからd(qz)を見積もることができ,それを薄片全体の厚さdから差し引くことで,d(mi)を得る.そして,d(mi)と揮発性成分の吸光度から,その濃度を計算することができる.この方法では,濃度はビーム透過経路の石英/メルト比に依らず,1つの値として得られることになる.したがって,高圧を保持している可能性の高い,ごく小さな包有物の分析にも利用可能と考えられる.
<検証実験と結果>
本手法の有効性を,以下の予備実験により検証した.まず,石英に特徴的なピークがどの波数に現れるか,そしてその吸光度は厚さに比例するかどうかを確認するため,玉山鉱山産石英の両面研磨薄片を作製し,赤外分光分析を行った.その結果,1500~2200cm-1の間にピークが複数本存在し,いずれも吸光度と厚さの間に比例関係を有することが確認された.比例定数は結晶方位には依存しなかった.そのうち,1790cm-1のピークは他のピークと干渉せず,吸光度を測定しやすいことから,これをd(qz)の指標として使用することとした.
次に,石英とメルトの合成スペクトルが純粋スペクトルの線形和になるかどうかを確認するため,石英結晶の薄片に和田峠黒曜石の薄片を重ね合わせ,分析を行った.その結果,合成スペクトルは純粋スペクトルの線形和になっていることが確認された.黒曜石の含水量は,石英/メルト比によらず,1つの値に計算された.
そして,実際にメルト包有物の含水量を求めることができるかどうかを,鬼首カルデラ起源の石英遊離結晶を用いて検証した.まず,直径150μmのメルト包有物を両面に露出させた薄片を作製し,10μm径のビームで分析し,含水量を決定した(4.4wt%).CO2は検出されなかった.次に,ビーム径を様々に変えて同じ包有物を分析し,石英寄与率が様々な合成スペクトルを取得し解析した.その結果,含水量は3550, 4500,5250 cm-1いずれのピークでも,石英寄与率d(qz)/dが増加するほど低く見積もられた.例えば3550cm-1では,石英寄与率が24%のとき,全含水量は2.3wt%と計算された.一方,4500,5250cm-1では,同じ石英寄与率のとき,含水量はそれぞれ真の値の63,84%であった.これは,合成スペクトルが純粋スペクトルの線形和にならないこと,そしてその非線形の程度はピークごとに異なることを意味する.なぜ,そうなるのか現在調査中である.