日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC49] 火山現象の即時理解:地球物理・物質科学観測と物理モデルの統合

2016年5月24日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 6ホール)

コンビーナ:*奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、小園 誠史(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)、青木 陽介(東京大学地震研究所)

17:15 〜 18:30

[SVC49-P08] マグマだまりの固化全過程:モデル実験によるアプローチ

*高橋 大地1隅田 育郎1 (1.金沢大学大学院自然科学研究科)

キーワード:マグマだまり、固化過程、熱対流、固化組織

初期に完全に熔融し、熱対流しているマグマだまりはどのように冷却、固化するのだろうか。また固化過程と固化組織の間にはどのような関係があるのだろうか。マグマだまりの固化、冷却過程は、これまでに実験的、理論的に調べられて来た(Brandeis & Marsh, 1989; Worster et al., 1990)が、固化の全過程を調べたものは少ない。そこで本研究ではワックスをマグマのモデル物質として用い、その冷却、固化過程の全過程を調べた。
アクリルセル(内寸:高さと幅が80mm、奥行き10mm)に凝固点約37℃のワックス(PEG1000)を入れ、下からヒーター(70℃)で加熱する。熱対流(レイリー数Ra=2.4×107、プラントル数Pr=700)が定常状態になってからヒーターを切る。その後、セルは冷却され、固化が進行する。固化過程はカメラでインターバル撮影し、熱電対とサーミスターを使って温度を測定した。実験は以下の3通りの熱境界条件下で行った:Case A(上から室温で冷却、下は断熱)、Case B(上から氷で冷却、下は断熱)、Case C(下から室温で冷却、上は断熱)。
本実験では、3つの大きな特徴が観察された。(1)3つの実験で固化が完了するまでの時間の違いは約5%と小さい。(2)ヒーターを切った直後の対流パターンは3つの実験で同じであったが、Case AとCase Cでは固化が始まってから早い段階で対流パターンが変化し、中央で1つの上昇流と左右で下降流のパターンになった。一方で、Case Bではヒーターを切った直後の対流パターンのまま固化が進行し、対流が停止する直前にパターンが変化した。(3) 固化は対流の温度場と対応して、下降域において速く進行する様子が観察された。Case AとCase Cでは2つのセルを形成して固化が進行し、最終的にセルの中心に大きな渦模様の固化組織を形成した。Case CではCase Aに比べて渦模様の位置がセルの上部に形成した。Case Bでは3つのセルを形成して固化が進行し、最終的に小さく不明瞭な渦模様を形成した。
以上の実験結果を考察する。(1) 熱境界条件を変えても完全に固化するまでに要する時間は同程度であった。これは境界の温度が低いと固化は早く開始するが、その後は熱境界層が厚くなるため熱輸送が低下し、固化の進行が遅くなるためと考えられる。(2) 固化前に対流パターンが変わったCase AとCase Cでは固化が開始するまでの時間(τs) > 対流がセルを一周する時間(tturn over)であった。一方で固化前に対流パターンが変わらなかったCase Bではτs < tturn overであった。これらの結果は対流パターンが変わるためには少なくともの時間を要することと整合的である。(3) 本実験では固化組織は固化前の対流の温度場と対応していた。温度場不均一の水平スケールを4 cmとすると、温度場が均一になるための熱拡散時間は約4時間と見積もられる。一方で対流停止後、固化が完了するまでの時間は15-18min程度であり、熱拡散時間よりも十分に短い。このため、対流の温度場のパターンと対応する固化組織が形成したと理解される。以上と同じ条件が満たされれば、マグマだまりでも同様な現象が起きる可能性があると推察される。