日本地球惑星科学連合2016年大会

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[U-04] 連合は環境・災害にどう向き合っていくのか?

2016年5月25日(水) 13:45 〜 15:15 国際会議室 (2F)

コンビーナ:*田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)、座長:田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)

14:45 〜 15:00

[U04-04] 近地津波の即時予測:津波警報の現状と将来にむけた技術開発

*対馬 弘晃1 (1.気象庁気象研究所)

キーワード:津波警報、津波即時予測、沖合津波観測、近地津波、災害軽減

プレート収束帯に位置する日本列島は,近地の大地震やそれに伴う津波の被害にしばしば見舞われてきた.こうした近地津波の被害を軽減するための手段の一つが,津波の即時予測である.地震が発生してから沿岸に津波が来るまでの5分から30分という限られた時間内で,迅速かつ正確に津波を予測し,それに基づく津波警報を住民まで適切に伝達できれば,避難行動の指標として機能し,被害軽減に貢献できる可能性がある.本発表では,東北地方太平洋沖地震時に気象庁が発表した津波警報と同地震を踏まえて行われた改善,そして,地震学・海岸工学・測地学をはじめとする学術分野において活発に進められている津波即時予測のための技術開発について紹介する.

近地津波が発生してから沿岸に到着するまでの時間内に,津波の即時予測に利用できる観測データは様々ある.たとえば,津波よりも伝播速度が速く地震発生直後に地震計で捉えることができる地震波データを用いて,地震規模(マグニチュード)を即時推定できれば,迅速な津波警報の発表に役立てることができる.あるいは,沿岸よりも先に津波を観測しうる沖合津波計のデータを用いれば,津波の直接観測に基づいた精度高い警報更新につながるものと期待される.気象庁は,こうした各観測データの長所を考慮して設計した津波警報システムを運用し,2011年東北地方太平洋沖地震においても迅速に警報発表と更新を行った.また,同地震で浮き彫りになった即時マグニチュードの過小評価の問題等を解決するため,手法の改良・警報システムへの導入を行い運用開始する等,津波警報の改善も進めてきた.

学術分野においても,津波警報のさらなる迅速化・高精度化を目指した津波観測・予測技術の開発・高度化が活発に進められている.観測技術としては津波監視能力の向上のため,南海トラフ沿いや千島・日本海溝沿いに海底地震津波観測網の大幅な増強が進められるとともに,離岸距離に制約のあるGPS波浪計を,これまで以上に沖合に設置するための技術開発も行われている.また,海底津波計は圧力観測に基づいており,地震時には津波のみならず地震波・地殻変動・水中音波など様々な現象による圧力変化が同時に観測される.こうした同時観測が津波成分の抽出にどう影響しうるかを明らかにするための理論研究も進められている.予測技術としては,地震計・GNSS・沖合津波計の観測データを活用した予測手法の開発が精力的に行われている.陸上地震・GNSS観測データを活用する手法としては,従来は点としての震源情報をリアルタイム推定するものが主であったが,東北沖地震後は,その実観測データを用いて,面としての情報すなわち断層の広がりとすべり分布も含めて即時把握するためのものが提案されつつある.他方,沖合津波データを活用する手法としては,従来から提案されていた波源即時推定に基づく手法に加え,沖合観測網が広域・高密度化することを活かしたデータ同化等に基づく手法も精力的に提案されつつある.加えて,こうした様々な観測データを組み合わせて相互補完することで,より予測精度を高めるための手法も開発されている.さらに,近年では,京コンピュータをはじめとするスーパーコンピュータやGPUなどの高速計算技術を活用して,非線形解析で計算コストの高い津波浸水計算を短時間のうちに完了させるための取り組みも活発になされている.こうした計算技術と上述の海陸観測網データに基づく即時解析結果を組み合わせて,浸水即時予測や津波被害の早期把握を行えば,津波避難行動や震災後早期の復旧活動の支援へとつながることが期待される.

このように,様々な方面から,津波の即時予測に資する技術開発がなされている.こうした開発・高度化を継続するとともに,それぞれの性能検証を慎重に行ったうえで実用化につなげていくことが,東日本大震災を経験した我々の責務であると考える.