日本地球惑星科学連合2016年大会

講演情報

口頭発表

セッション記号 U (ユニオン) » ユニオン

[U-04] 連合は環境・災害にどう向き合っていくのか?

2016年5月25日(水) 15:30 〜 17:00 国際会議室 (2F)

コンビーナ:*田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)、座長:田中 賢治(京都大学防災研究所)、作野 裕司(広島大学大学院工学研究院)、後藤 真太郎(立正大学地球環境科学部環境システム学科)

15:30 〜 15:45

[U04-06] 過去の線状降水帯による集中豪雨事例にみられた予測と防災情報の課題

*加藤 輝之1 (1.気象研究所)

キーワード:集中豪雨、線状降水帯、数値予報、防災情報

日本では梅雨期を中心に、幅20~50km、長さ50~200kmの線状降水帯が単独または複数発生し、数時間同じ場所に留まることにより、度々集中豪雨が発生する。台風による直接的な大雨を除き、集中豪雨事例の約3 分の2(梅雨期に限れば約4 分の3)は、線状降水帯によることが統計的に調べられている(津口・加藤 2014)。その発生形態としては、地形等の影響で形成される局地前線上に一斉に積乱雲が発生する破線型と積乱雲が下層風上側で繰り返し発生するバックビルディング型の2つが日本で見られる主なタイプである。前者の例としては、2013年の伊豆大島の大雨があり、後者としては、2014年の広島の大雨が代表例である。ここでは、これらの例に2015年の関東・東北豪雨も含め、数値モデルによる予測の現状を述べ、線状降水帯の発生しやすい地域を示しながら、予測結果を用いた防災情報の出し方に関する課題を議論する。
1959年の狩野川台風による伊豆半島の大雨にも当てはまるが、2013年の伊豆大島の大雨は関東平野からの冷気と台風周辺からの暖湿流によって形成された局地前線上で発生した線状降水帯がもたらした。その局地前線の形成位置の予測が大雨の予測精度に直結するのは説明するまでもない。ただ、関東平野に発する局地前線の大部分は海上に位置し、島部や伊豆半島に掛からない限り、災害のリスクは大きくならないため、防災情報の発信には工夫が必要となる。
2014年の広島の大雨では、下層水蒸気が豊後水道から広島と山口の県境付近に継続して流入し、ほぼ同じ場所で積乱雲が発生し続け、1つの線状降水帯が形成した。数値予報の初期値が変わると、予測降水量に差が生じたものの、下層水蒸気が流入した場所が特定されたので大雨はほぼ同じ領域に予想できた。2015年の関東・東北豪雨では、関東平野に南東海上から幅広く下層水蒸気が流入したために、広島のケースのように積乱雲の発生位置が特定されず、関東南部の複数の位置で線状降水帯が発生した。ただ、長期間発生し続けたために、栃木県北部を中心に24時間降水量は500ミリを超えた。また、線状降水帯の発生場所が数値予報の初期値でかなり変わり、大雨の発生位置の予測が関東北部で大きく変動した。大雨が予測される領域を絞り込めなかったが、関東北部程度の範囲を対象に線状降水帯による大雨に関する防災情報を出せたと考えられる。
数値予報で量的にまた線状降水帯を直接予測することはまだ難しいのが現状である。しかし、線状降水帯が発生しやすい大気状態についての理解は深まっている(加藤 2014; 2015)。関東・東北豪雨のケースでは数値モデルは24時間前には関東北部で大雨を予測できていたが、その12時間前には線状降水帯が発生しやすい大気状態であることが予測できていた。また、暖候期を対象に線状降水帯が発生しやすい大気状態の出現頻度を統計的に調査した結果、九州西岸で9%程度の高頻度であった一方、関東地方では1%程度しか出現しないことが示された。このことは線状降水帯による大雨が関東地方であまり観測されていない事実とよく対応している。以上の結果は、低頻度でしか発生しない線状降水帯による大雨に対する防災情報のあり方の検討やその情報についての理解に対する啓発が必要不可欠であることを示唆する。
参考文献
加藤輝之, 2015: 線状降水帯発生要因としての鉛直シアーと上空の湿度について. 平成26年度予報技術研修テキスト, 気象庁予報部, 114-132.
加藤輝之, 2016: メソ気象の理解から大雨の予測について~線状降水帯発生条件の再考察~. 平成27年度予報技術研修テキスト, 気象庁予報部, (印刷中).
津口裕茂・加藤輝之, 2014: 集中豪雨事例の客観的な抽出とその特性・特徴に関する統計解析. 天気, 61,455-469.