日本地球惑星科学連合2018年大会

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[EE] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS01] 高性能スーパーコンピュータを用いた最新の大気科学

2018年5月20日(日) 13:45 〜 15:15 302 (幕張メッセ国際会議場 3F)

コンビーナ:瀬古 弘(気象研究所)、小玉 知央(独立行政法人海洋研究開発機構)、滝川 雅之(独立行政法人海洋研究開発機構、共同)、三好 建正(理化学研究所計算科学研究機構)、座長:瀬古 弘(気象研究所)、滝川 雅之(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

13:45 〜 14:00

[AAS01-01] ネスト可能でマルチグリッド法の利用に適した全球スペクトルモデル用の格子系の提案

*堀田 大介1,2氏家 将志2 (1.気象庁気象研究所、2.気象庁予報部数値予報課)

キーワード:数値予報、全球スペクトルモデル、マルチグリッド法

1. はじめに
全球大気スペクトルモデルでは球面調和変換でガウスの求積法を使い、緯度方向に不規則なガウス緯度を用いるのが一般的である.しかし,ガウス緯度はネストせず高解像度の格子が低解像度の格子を含まないため,セミインプリシット時間積分から帰結するヘルムホルツ方程式を解く際にマルチグリッド法を使用することが難しい.本研究では,非静力学方程式系をセミインプリシット法で積分する際に解く必要が生じる非定数係数ヘルムホルツ方程式を繰り返し計算で解く際にマルチグリッド法を使用可能とすることを最終的な目的として,ネスト可能でかつ球面調和変換が可能な球面上の格子系を提案し,これを球面浅水モデルと気象庁全球スペクトルモデル(GSM)の力学コアへ適用した結果を報告する.

2. 格子系と求積法の定式化
緯度方向の求積法として,一般的なGauss-Legendreの求積法の代わりにClenshaw-Curtisの求積法の一種(Fejérの第2ルール)を用いる.この求積法では求積点の余緯度が θj=J+1 j=1,…,J となり,緯度方向の格子は極を含まず,等間隔となる.この格子系はネスト可能である.即ち,J点の格子をj=2から1つ飛ばしで選んだ格子が(J–1)/2点の格子を構成する.なお,厳密な求積のためには切断全波数Nに対してJ ≥2N+1 以上の南北格子点が必要になり,Gaussの場合の3次切断相当以上の高次の波数切断が必要となる.

3. 正規直交性と非線形項のエイリアシング誤差
提案する求積法と格子系をGSMのコードに実装し,J ≥2N+1の条件が満たされる限りLegendre陪関数の正規直交性が数値的に丸め誤差の範囲で成り立つことを様々な解像度で確認した.この求積法では2次以上の非線形項に求積誤差に起因するエイリアシングが生じるが,エイリアシングの相対誤差は小さい(最大でも~10–3)ことを数値的に確認した.
モデルと理想化実験の設定 GSMのコードを用いて構築したセミインプリシット・セミラグランジュ(SISL)法の球面浅水モデルを使用
しWilliamson (1992; J. Comp. Phys.)のテストケース5及びGalewsky et al. (2004; Tellus A) の順圧不安定波実験を,提案するClenshaw-Curtisの求積法を用いた格子と一般的なガウス格子の双方を用いて実行し,格子系の違いによる積分結果の差を調べた.実験には3次格子を用い,Tc479(Δx~20 km) までの複数の解像度を試した.また,GSMの力学コアを用い,3次切断・全波数159の解像度(Δx~60 km)にて3次元の静水圧プリミティブ方程式系の傾圧不安定波実験(Jablonowski et al. 2006; QJRMS)により同様の比較を行った.
4. 結果
浅水モデル実験の結果,異なる求積法の使用による積分結果の差は非常に小さく無視できる程度であることを確認した(両テストケースとも6日積分の渦度の相対誤差がL2ノルムで10–5以下;図a-c).3次元プリミティブ系の実験でも同様の結果を得た(9日積分T850のL2相対誤差が~10–3).
5. 将来への展望:スペクトル法・格子法併用モデル
本稿で提案した格子系と求積法を使用することにより,非定数係数ヘルムホルツ方程式の繰り返し法で解く際に複雑な内挿処理なしで擬スペクトル・マルチグリッド法が実装可能となる.擬スペクトル法では格子空間での水平微分の評価にのみスペクトル変換を用いる.よって,差分ステンシルが単純になるよう各緯度ごと東西方向の格子数を調節した構造格子(図d)を導入し,水平微分を有限差分・有限要素・有限体積法等により格子空間で局所的に評価することで全対全通信に依存するスペクトルモデルからノード間通信の少ない格子モデルへの移行,ないし両手法のハイブリッド化がスムーズに行えるものと期待する.