日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS06] 大気化学

2018年5月24日(木) 09:00 〜 10:30 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:岩本 洋子(広島大学 生物圏科学研究科)、中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、豊田 栄(東京工業大学物質理工学院、共同)、江口 菜穂(Kyushu University)、座長:池田 恒平(国立環境研究所)

09:30 〜 09:45

[AAS06-08] 東アジア下流域におけるブラックカーボン粒子の湿性沈着フラックスの季節変化

*森 樹大1三浦 和彦1大畑 祥2茂木 信宏2小池 真2近藤 豊3中込 和徳4吉川 昌範5岩崎 綾6 (1.東京理科大学、2.東京大学大学院理学系研究科、3.国立極地研究所、4.長野県環境保全研究所、5.福井県衛生環境研究センター、6.沖縄県衛生環境研究所)

キーワード:ブラックカーボン、湿性除去、地上観測、東アジア

ブラックカーボン(BC)は、太陽光を吸収し大気を加熱するエアロゾルである。BCの放射強制力の推定の不確実さを減らすためには、BC質量濃度の時空間分布の支配因子の一つである湿性除去過程を観測的に理解する必要がある。湿潤対流においてBC含有粒子の多くは、雲凝結核として作用し降水で除去されるが、大気中のBC含有粒子のうち、どれほど降水で除去されるかを理解するためには大気と降水中のBC質量濃度を同時に観測する必要がある。特に東アジア域は、BC排出量や降水量も多いため、地球上でBCの湿性沈着フラックスが多い領域である。そこで本研究では、中国大陸起源の汚染空気塊の下流域にあたる沖縄県辺戸岬、福井県越前岬、長野県八方尾根において、大気中のBC質量濃度 (MBC) と降水中のBC質量濃度 (CBC) を同時に観測し、両者の濃度やBC湿性沈着フラックス (FBC) の季節変化から、東アジア下流域におけるBCの空間分布を明らかにする。観測期間はそれぞれ、2010/4 ~ 2017/1、2012/8 ~ 2016/7、2012/7 ~ 2016/9である。

MBCの測定はブラックカーボンモニタ(COSMOS)を使用した。また、1日ごとに降水を採取し、同軸型ネブライザーとレーザー誘起白熱法を組み合わせた測定法により、CBCを測定した。辺戸岬では、MBCCBCともに冬季 (12月~2月) から春季 (3月~5月) にかけて増加し、夏季 (6月~8月) に減少した。MBCの増加は、中国大陸からの汚染空気塊が冬季の季節風や春の移動性擾乱に伴う北西風によって多く輸送されたためである。CBCの月平均値は春季 (66.1±70.0 μg L-1) に最も高くなり、境界層内の高いMBCCBCの支配因子の一つであることが示唆された。越前岬や八方尾根では、MBCは冬季から春季にかけて増加する一方、CBCは秋季 (9月~11月) から冬季にかけて増加した。越前岬や八方尾根の冬季におけるCBCの月平均値は、それぞれ19.6±14.1 μg L-1、14.4±10.8 μg L-1となった。CBCの増加理由は境界層内のMBCの増加だけでなく、BC含有粒子の雲凝結核能が高い可能性や降雪粒子との衝突過程を多く経験した可能性がある。次にCBCと降水量の積で表せるFBCを算出した。辺戸岬では、春季におけるFBCの月平均値 (11.8 mg m-2 month-1) が年平均値 (3.7 mg m-2 month-1) よりも約3倍高く、年間のFBCのうち約8割を占めた。これは春季におけるCBCが高く、梅雨前線や低気圧の影響で降水量も増加したためである。越前岬や八方尾根では、冬季におけるFBCの月平均値 (越前岬:4.08 mg m-2 month-1、八方尾根:2.05 mg m-2 month-1) が年平均値 (越前岬:2.01 mg m-2 month-1、八方尾根:1.20 mg m-2 month-1) よりも約2倍高く、年間のFBCの約4~5割を占めた。これは、冬季におけるCBCが高く、降水・降雪量も増加したためである。本観測で得られたFBCは、気候モデルが推算するFBCの検証データとして非常に有効である。