日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS06] 大気化学

2018年5月24日(木) 15:30 〜 17:00 A05 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:岩本 洋子(広島大学 生物圏科学研究科)、中山 智喜(長崎大学 大学院水産・環境科学総合研究科)、豊田 栄(東京工業大学物質理工学院、共同)、江口 菜穂(Kyushu University)、座長:滝川 雅之(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

16:30 〜 16:45

[AAS06-26] 全球BVOCs発生量推定の高精度化

*須藤 健悟1,2宮崎 和幸2伊藤 昭彦3 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.海洋研究開発機構、3.国立環境研究所)

キーワード:植物起源VOCs、2次有機エアロゾル、化学気候モデル、ホルムアルデヒド、イソプレン

生物起源揮発性有機化合物(BVOCs)は植物から大量に大気中に放出され、大気化学に大きな影響を与える。とくにBVOCsの主要成分であるイソプレンは二次有機エアロゾル(SOA)の主要な前駆体でもあるため、正確なBVOCsの全球分布・収支の把握は、大気環境や気候変動の予測において非常に重要な課題となっている。

本研究では、BVOCsの発生量推定における不確定性に着目し、地上BVOCs観測と大気化学モデル計算の比較から、陸域生態系モデルVISITにより推定された全球BVOCs発生量の修正を試みた。この結果、現状のBVOCs発生量推定値に適用すべき修正ファクター(CF)はマレシーア域~0.1、アマゾン・アフリカ域~0.5、ヨーロッパ域~3、北米域~2となった。

つぎに、BVOCsの主な酸化生成物であるホルムアルデヒド(HCHO)の衛星観測データを利用し、本研究で導出された上記修正ファクターの妥当性を検証した。本研究では、大気化学モデルCHASERによりBVOCs発生量の入力データやHCHOの生成収率(Y)を標準から変化させながら、感度実験を行った。ここではBVOCsとしてイソプレンに着目し、イソプレンのエミッション量はVISITによる推定データを基準とした。この結果、 上記修正ファクターを適用し、HCHOの収率Yを標準モデルの50%とした場合に、OMI衛星観測によるHCHO全球分布との最もよい一致がみられた。このときの、イソプレンエミッションの全球総量は371 TgC yr-1となり、標準推定データの約520 TgC yr-1 から大幅な下方修正となった。

また、感度実験の一環として、雷からのNOx発生量を小さく設定し、対流圏大気中のOHラジカル濃度を意図的に低減させた実験も行ったところ、南米等の熱帯域でメタンからのHCHO生成が減少し、HCHO再現性の向上が確認された。このことからHCHOの衛星観測を用いた検証には、BVOCだけでなく、OHの分布も大きく影響することが示唆された。とくに、インド洋・インドネシア~西太平洋では、どの感度実験もOMIのHCHOを顕著に過大評価しているため、これらの領域でモデル中のOHラジカルが過大評価されている可能性が高い。