12:00 〜 12:15
[AAS07-12] 最終氷期最盛期実験における成層圏化学フィードバックによる寒冷化抑制
★招待講演
キーワード:オゾン、古気候、化学フィードバック、CMIP、最終氷期最盛期、二酸化炭素
成層圏オゾンの変化は対流圏の気候にも影響する. 例えば南極オゾンホールの生成・回復に伴う海氷減少・増加の寄与が指摘されている (Thompson et al., 2011; Ferreira et al., 2015). しかし古気候研究においては成層圏オゾンの影響は重視されておらず, CMIP6/PMIP4 の一部の古気候実験では本来日射分布や CO2 濃度に依存するはずのオゾン分布に西暦 1850 年の推定値を与える規定になっている. この扱いにより結果にバイアスが生じる可能性がある. そこで我々はオゾン分布を陽に計算できる地球システムモデルを用いて古気候実験を行い, 成層圏オゾンが古気候にもたらす影響を調べている. 完新世中期 (6000 年前) 実験の結果は JGR に発表済である (Noda et al., 2017). オゾンを予報した場合では南極域の秋から春に成層圏オゾンが増加して温度が上昇し, 春の西風ジェットの減速, およびその地表への伝播を通じて海氷が減少した. 最終的に年平均帯状平均地表気温で最大 +1.7 度の差を生じた.
今回は上記の完新世中期実験に並ぶ代表的な古気候実験のひとつである最終氷期最盛期 (21000 年前, 以降 LGM) 実験の結果を示す. この時代は CO2 濃度が 180 ppm 程度と現代の約半分であり, 全球的に寒冷であったことが知られている (Annan and Hargreaves, 2013). オゾンを陽に計算する実験には気象研究所地球システムモデル MRI-ESM を用いた. CMIP5 における LGM (21000 年前) および piControl (西暦 1850 年, 以降 PI) に対応する実験を行った . LGM の境界条件は CMIP5/PMIP3 にならい, CO2 濃度 185 ppm, 軌道要素の変化などを適用した. 積分期間は 110 年で, 準平衡状態に達した最後の 50 年を解析に用いた. 境界条件の違いがもたらす影響のうち, 化学過程の寄与を以下のように評価した.
(LGMactive − PIactive) − (LGMfix − PIfix)
添字の active はオゾンを予報した結果, fix はオゾンに西暦 1850 年の推定値 (季節変動あり) を与えた結果を意味する. fix の結果には CMIP5 の MRI-CGCM3 の結果を用いた.
地表気温の年平均帯状平均分布の LGM と PI の差について, 化学過程の寄与は熱帯で +0.5 度程度 , 高緯度では最大 +1.6 度の温暖化 (寒冷化の抑制) をもたらした . これを生じたメカニズムは次のように考えられる: (1) CO2 濃度が低いことによる寒冷化によりブリュワー・ドブソン循環が弱くなる; (2) 熱帯下部成層圏の上昇流が弱いため, その場のオゾンが薄まらず濃くなる; (3) オゾンによる温室効果が強まり, 下部成層圏と対流圏が温暖化する; (4) 対流圏の水蒸気量が増加し, 温室効果の正のフィードバックがかかる. これは CO2 を急激に 4 倍にした実験 (CMIP5 の abrupt4xCO2 実験) において , オゾンを予報すると温暖化が抑制された結果 (Nowack et al., 2015) に対し, 強制と応答がそれぞれ逆符号になったものと考えられる . オゾン, 温度とも , 我々と Nowack et al. で応答パターンが似ている (符号は逆) ことは, これを支持する. 以上より, 古気候のモデル計算では当時の CO2 濃度に整合的なオゾン分布を用いるべきことが示唆される.
今回は上記の完新世中期実験に並ぶ代表的な古気候実験のひとつである最終氷期最盛期 (21000 年前, 以降 LGM) 実験の結果を示す. この時代は CO2 濃度が 180 ppm 程度と現代の約半分であり, 全球的に寒冷であったことが知られている (Annan and Hargreaves, 2013). オゾンを陽に計算する実験には気象研究所地球システムモデル MRI-ESM を用いた. CMIP5 における LGM (21000 年前) および piControl (西暦 1850 年, 以降 PI) に対応する実験を行った . LGM の境界条件は CMIP5/PMIP3 にならい, CO2 濃度 185 ppm, 軌道要素の変化などを適用した. 積分期間は 110 年で, 準平衡状態に達した最後の 50 年を解析に用いた. 境界条件の違いがもたらす影響のうち, 化学過程の寄与を以下のように評価した.
(LGMactive − PIactive) − (LGMfix − PIfix)
添字の active はオゾンを予報した結果, fix はオゾンに西暦 1850 年の推定値 (季節変動あり) を与えた結果を意味する. fix の結果には CMIP5 の MRI-CGCM3 の結果を用いた.
地表気温の年平均帯状平均分布の LGM と PI の差について, 化学過程の寄与は熱帯で +0.5 度程度 , 高緯度では最大 +1.6 度の温暖化 (寒冷化の抑制) をもたらした . これを生じたメカニズムは次のように考えられる: (1) CO2 濃度が低いことによる寒冷化によりブリュワー・ドブソン循環が弱くなる; (2) 熱帯下部成層圏の上昇流が弱いため, その場のオゾンが薄まらず濃くなる; (3) オゾンによる温室効果が強まり, 下部成層圏と対流圏が温暖化する; (4) 対流圏の水蒸気量が増加し, 温室効果の正のフィードバックがかかる. これは CO2 を急激に 4 倍にした実験 (CMIP5 の abrupt4xCO2 実験) において , オゾンを予報すると温暖化が抑制された結果 (Nowack et al., 2015) に対し, 強制と応答がそれぞれ逆符号になったものと考えられる . オゾン, 温度とも , 我々と Nowack et al. で応答パターンが似ている (符号は逆) ことは, これを支持する. 以上より, 古気候のモデル計算では当時の CO2 濃度に整合的なオゾン分布を用いるべきことが示唆される.