日本地球惑星科学連合2018年大会

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[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS07] 成層圏・対流圏過程とその気候への影響

2018年5月23日(水) 13:45 〜 15:15 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:渡辺 真吾(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、河谷 芳雄(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、関谷 高志(国立研究開発法人 海洋研究開発機構、共同)、佐藤 薫(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、座長:渡辺 真吾(海洋研究開発機構)

14:00 〜 14:15

[AAS07-14] 全中性大気に対する最適なデータ同化システムの検討

*小新 大1佐藤 薫1宮崎 和幸2渡辺 真吾2 (1.東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻、2.海洋研究開発機構)

キーワード:中層大気、中間圏、データ同化

1. はじめに
 中層大気においては主に対流圏起源のロスビー波・重力波による運動量・熱輸送によりラグランジュ流が駆動され、放射平衡の場とは大きく異なる気温や東西風の構造が維持されている。成層圏ではロスビー波、中間圏では重力波の役割が大きいといわれている。近年、中間圏の子午面循環を介した南北半球間結合の存在が示唆されているが、重力波変調に対する観測的検証はほとんど行われていない。
 全球の運動量収支を調べるにはデータ同化によるグローバル解析値の作成が有効である。しかし中層大気では対流圏に比べ観測の密度が低く、数値モデルの予測可能性も高いレベルにはないため、特に中間圏を含むデータ同化は開発段階にある。本研究は、地上から下部熱圏までをカバーするデータ同化システムの構築を目的とする。
 対象期間は2017年1~2月。この期間には大型大気レーダー網による国際共同観測Interhemispheric Coupling Study by Observation and Modeling (ICSOM; http://pansy.eps.s.u-tokyo.ac.jp/icsom/)が行われ、2月1日には北極成層圏突然昇温が発生している。
2. データ同化手法
 予報モデルにはJapanese Atmospheric GCM for Upper Atmospheric Research(JAGUAR; Watanabe and Miyahara, 2009)を用いた。本研究ではまず比較的大規模場のデータ同化を行うため、水平解像度を約300km(T42)とした。モデルの拡散係数、重力波パラメタリゼーションに関してはフリーランの東西風を夏半球中間圏のレーダー観測と比較して現実に近くなるように調整した(2017年秋季大会予稿参照)。
 用いた観測データは2種類である。1つめはNCEP提供の地上~高度約30kmまでの観測データセットPREPBUFRである。もう1つはAura衛星搭載のMicrowave Limb Sounder (MLS)の気温リトリーバルで、高度約10~100kmをカバーする。
 データ同化には4次元局所化変換アンサンブルカルマンフィルタ(4-D Local Ensemble Transform Kalman Filter; 4D-LETKF; Miyoshi and Yamane, 2007)を用いた。この手法は大きな行列計算を回避することにより計算効率が高く、局所化の導入により並列化が容易である。4次元変分法と異なり、モデルコードに依存せず汎用性が高いという特長もある。
3. 同化パラメータの調整
 データ同化を行う際の設定パラメータは多数あり、対流圏及び成層圏を対象としたデータ同化では経験的な設定(標準設定とよぶ)が用いられる。しかし中間圏や下部熱圏でも同じ設定が適切だとは限らないため、調整を行い同化システムの最適化を図った。標準設定から各パラメータをひとつ変更した同化ランを行い、結果を比較した。
・データ同化モジュールのパラメータ(4種)
 
予報誤差共分散の計算に使われるアンサンブルメンバー数は30から90に増やすと精度が向上し、90と120とではほぼ同様の結果であった。局所化長は600kmから1000kmへと延ばし、各グリッドにより多くの観測を取り入れるのが有効であった。同化ウインドウ長は6時間から12時間へと延長すると、解析値の質は逆に悪化した。6時間と3時間とではほぼ同じであった。予報誤差の過小評価を軽減するインフレーション係数は7%から15%へ増やすと質が向上した。また、高度ごとに係数を設定する手法の有効性も確認された。
・MLS観測データを取扱う際のパラメータ(4種)
 
観測領域が限られるがバイアスが小さいことが知られているSABERのデータをもとに、MLSのバイアスを時間、緯度、高度の関数として求め、補正した後データ同化に用いた。観測データの分布を空間平均しモデル分解能に合わせるスーパーオブザベーションの有効性も確かめた。また、スピンアップ時の観測誤差を始めに大きく、徐々に減らしモデル場が現実大気の場に早く収束するよう工夫した。MLS観測値の品質管理を行うグロースエラーチェック係数を緩め、予報値に対する観測値の信用度を高めた。
 以上の、一連の調整結果として、中間圏・下部熱圏では観測をより多く取り込む設定が有効だとわかった。全パラメータを最適設定にしてデータ同化を行うと、図1に示すようにMLS観測値及びMERRA-2再解析値と整合的な解析値が得られた。この解析値を用いて、ICSOM期間中の突然昇温前後の場の変化も示す予定である。

図1. 北緯70度、0.1hPaの東西平均気温の時系列。黒線は標準設定、黒太線は最適設定、灰色線は検討した設定。破線はMLS観測値、点線はMERRA-2再解析値。