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[ACC28-04] 「だいち2号」を用いた積雪深マップの作成にむけて
キーワード:SAR、積雪深、長岡
地球温暖化の進行に関連し、極端な気象現象の頻発が危惧されている。そのような極端気象の一つが降雪の集中である。日本内陸部において現在よりも災害を伴う顕著な大雪現象が高頻度に現れ、豪雪による降雪量も増大する可能性がある(Kawase et al. 2016)。これに起因する交通障害・建物倒壊や雪崩などの災害リスクを予防・軽減するためには、積雪深の面的把握が必要とされる。地形によって不均一な積雪深を面的に把握するためには、定点観測に加えて、被雲に影響されない合成開口レーダ(SAR)の利用が有効な手法と考えられる(田殿ほか, 2003)。これまでの研究ではSAR後方散乱強度を利用した積雪深推定が検討されている(外狩ほか, 2015)。後方散乱強度は土地被覆の影響を大きく受け、参照データに異なる季節を混在させることは誤差要因となる(たとえば田植え後の水面と稲刈り後の土面など)。そこで本研究では衛星搭載Lバンド合成開口レーダを利用し、水田の土地被覆の季節変化を考慮した積雪深推定を試み、実利用への可能性を議論する。
本研究では新潟県長岡市周辺を対象地域とした(Fig.1a)。冬季積雪は数メートルに達し、一般的に平野から山間部へ行くほど積雪深が大きくなる。この地域を観測した陸域観測技術衛星「だいち2号」搭載Lバンド合成開口レーダ(PALSAR-2)のデータを解析した。積雪時(2016/3/1)に高分解能モード(3 m)で観測された積雪時データに加えて、同軌道・入射角(Path19/Frame2860/U2-7)で複数年に観測された無積雪時データ(冠水時:2015/6/23, 2016/6/7, 2017/6/6、稲刈後:2014/11/11, 2015/11/24, 2016/11/8, 2017/11/7)を参照した。これらの標準プロダクトL2.1を入手し、スペックルノイズや表面租度の影響を軽減するために半径10画素の円内における平均値を中心点に付与した。加えて現地観測を2016/2/26に実施し、観測範囲に含まれる8地点において、測深棒で積雪深を計測した。
各現地調査地点で計測された積雪深と、その地点においてPALSAR-2後方散乱強度の画素値が6月・11月の平均値よりどれくらい変化したかを比較した(Fig. 1b)。6月と比較すると、積雪深が0 cmに近いところでは無積雪時(冠水状態)との差は小さく、積雪深に応じて後方散乱強度が増加する傾向が示された。一方11月と比較すると、積雪深が0 cmに近いところでは積雪時の後方散乱強度は顕著に低く、積雪深が大きくなるほど無積雪時の値に近づく増加傾向が示された。今回の現地調査時には積雪底面は融解しており、ぬかるんだ泥が測深棒の先端に付着する状態であった。PALSAR-2観測はこの5日後の3月であるため、さらに融解が進んだ状態と考えられる。このとき積雪底面は冠水時と同じ水で満たされた状態であることにより、積雪が浅い地点では6月の後方散乱強度に近い値が得られ、深くなるほど積雪内の体積散乱による反射が大きくなったことが考えられる。一方の稲刈後の11月と比較すると、雪が深くなるほど水面よりも土壌に近い反射特性になっていき、積雪深と後方散乱強度の差分に正相関が生じたものと考えられる。先行研究は積雪が深くなるほど無積雪時より後方散乱強度が下がる負の相関を示しているが(外狩ほか, 2015)、これは、AMeDAS観測点上であり、より寒い時期の観測も含み、夜間に観測されたものであるため、積雪底面が凍結している可能性が高い。
このように本研究ではPALSAR-2データから積雪深を推定できる可能性が示された。このときに最も重要なのは地表面および積雪内の水分の有無である。融解時期には雪が浅いと水面に近い後方散乱強度になり、積雪深と後方散乱強度が正相関を示すことが分かった。ゆえに合成開口レーダを用いた積雪深推定のためには、日時によって融解状態を考慮した都度校正が必要であるといえる。
参考文献:
Kawase, Hiroaki, et al. Enhancement of heavy daily snowfall in central Japan due to global warming as projected by large ensemble of regional climate simulations. Climatic Change. 2016. 139.2 pp.265-278.
外狩麻子ほか. 衛星SARを用いた積雪深分布推定に関する研究. In: 雪氷研究大会講演要旨集 雪氷研究大会. 2015. p. 210.
田殿武雄ほか. 衛星搭載SARデータを用いた湿雪域における積雪水文パラメータの推定手法の開発. In: 水工学論文集. 2002. 46 pp.37-42.
Figure 1.(a)新潟県長岡市周辺のPALSAR-2撮像域と現地調査地点(星印)。(b)積雪深に応じた後方散乱強度変化。積雪時(2016/3/1)と無積雪時(6月・11月)の画素値(DN)を比較した.
本研究では新潟県長岡市周辺を対象地域とした(Fig.1a)。冬季積雪は数メートルに達し、一般的に平野から山間部へ行くほど積雪深が大きくなる。この地域を観測した陸域観測技術衛星「だいち2号」搭載Lバンド合成開口レーダ(PALSAR-2)のデータを解析した。積雪時(2016/3/1)に高分解能モード(3 m)で観測された積雪時データに加えて、同軌道・入射角(Path19/Frame2860/U2-7)で複数年に観測された無積雪時データ(冠水時:2015/6/23, 2016/6/7, 2017/6/6、稲刈後:2014/11/11, 2015/11/24, 2016/11/8, 2017/11/7)を参照した。これらの標準プロダクトL2.1を入手し、スペックルノイズや表面租度の影響を軽減するために半径10画素の円内における平均値を中心点に付与した。加えて現地観測を2016/2/26に実施し、観測範囲に含まれる8地点において、測深棒で積雪深を計測した。
各現地調査地点で計測された積雪深と、その地点においてPALSAR-2後方散乱強度の画素値が6月・11月の平均値よりどれくらい変化したかを比較した(Fig. 1b)。6月と比較すると、積雪深が0 cmに近いところでは無積雪時(冠水状態)との差は小さく、積雪深に応じて後方散乱強度が増加する傾向が示された。一方11月と比較すると、積雪深が0 cmに近いところでは積雪時の後方散乱強度は顕著に低く、積雪深が大きくなるほど無積雪時の値に近づく増加傾向が示された。今回の現地調査時には積雪底面は融解しており、ぬかるんだ泥が測深棒の先端に付着する状態であった。PALSAR-2観測はこの5日後の3月であるため、さらに融解が進んだ状態と考えられる。このとき積雪底面は冠水時と同じ水で満たされた状態であることにより、積雪が浅い地点では6月の後方散乱強度に近い値が得られ、深くなるほど積雪内の体積散乱による反射が大きくなったことが考えられる。一方の稲刈後の11月と比較すると、雪が深くなるほど水面よりも土壌に近い反射特性になっていき、積雪深と後方散乱強度の差分に正相関が生じたものと考えられる。先行研究は積雪が深くなるほど無積雪時より後方散乱強度が下がる負の相関を示しているが(外狩ほか, 2015)、これは、AMeDAS観測点上であり、より寒い時期の観測も含み、夜間に観測されたものであるため、積雪底面が凍結している可能性が高い。
このように本研究ではPALSAR-2データから積雪深を推定できる可能性が示された。このときに最も重要なのは地表面および積雪内の水分の有無である。融解時期には雪が浅いと水面に近い後方散乱強度になり、積雪深と後方散乱強度が正相関を示すことが分かった。ゆえに合成開口レーダを用いた積雪深推定のためには、日時によって融解状態を考慮した都度校正が必要であるといえる。
参考文献:
Kawase, Hiroaki, et al. Enhancement of heavy daily snowfall in central Japan due to global warming as projected by large ensemble of regional climate simulations. Climatic Change. 2016. 139.2 pp.265-278.
外狩麻子ほか. 衛星SARを用いた積雪深分布推定に関する研究. In: 雪氷研究大会講演要旨集 雪氷研究大会. 2015. p. 210.
田殿武雄ほか. 衛星搭載SARデータを用いた湿雪域における積雪水文パラメータの推定手法の開発. In: 水工学論文集. 2002. 46 pp.37-42.
Figure 1.(a)新潟県長岡市周辺のPALSAR-2撮像域と現地調査地点(星印)。(b)積雪深に応じた後方散乱強度変化。積雪時(2016/3/1)と無積雪時(6月・11月)の画素値(DN)を比較した.