日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC28] 雪氷学

2018年5月23日(水) 10:45 〜 12:15 106 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:縫村 崇行(千葉科学大学)、石川 守(北海道大学)、舘山 一孝(国立大学法人 北見工業大学、共同)、永井 裕人(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)、座長:砂子 宗次朗(名古屋大学大学院環境学研究科)

12:00 〜 12:15

[ACC28-12] 高分解能光学顕微鏡による氷表面の分子ステップと疑似液体層観察

*長嶋 剣1佐崎 元1村田 憲一郎1古川 義純1羽馬 哲也1 (1.北海道大学低温科学研究所)

キーワード:氷、表面融解、疑似液体層、分子ステップ、高分解能光学顕微鏡

氷は地球上に多量に存在する結晶の1つであり、分子レベルで氷表面を理解することは氷が関わる様々な分野において重要となる。我々はオリンパス(株)と共同で高さ分解能に特化したレーザー共焦点微分干渉顕微鏡(LCM-DIM)を開発し、気相成長する氷結晶表面の観察を行ってきた[1]。LCM-DIMによって高さ0.37 nmの氷の単位ステップが観察可能となったため、ステップの成長速度測定や[3,4]、水分子の氷表面拡散距離[3]などを求めることができた(詳細は「M-IS07: 結晶成長・溶解」セッションでも発表予定)。
また、0℃以下であるにも関わらず氷表面が疑似液体層に覆われるという氷の表面融解現象もLCM-DIMで直接観察することに成功した[4]。疑似液体層はこれまで考えられてきた一様に薄い薄膜で覆われる完全濡れの状態ではなく、液滴状や薄膜状の疑似液体層が不完全濡れの状態で覆っており[4,5]、その出現条件は、ベーサル面でもプリズム面でもおよそ-2℃以上であることに加え[4,6]、水蒸気量にも依存し平衡近傍では疑似液体層が消失することもわかった[5,7]。また、氷結晶のひずみが疑似液体層の出現を促進すること[8]、擬似液体層はバルク水より流れにくい(表面張力と粘性係数の比)ことなどが判明した[9]。
これまで述べた観察用の氷単結晶は、氷表面との相互作用が起こりにくいであろう窒素雰囲気1気圧下で育成されたものである。一方、天然の氷は様々な大気ガス成分の中で成長したものであり、さらに氷表面は大気ガスとの反応場としても注目されている。よって、オゾン層破壊の原因となるため最も良く調べられている塩化水素ガスが氷表面に与える影響についても調べはじめた。0.1%の塩化水素ガス(100 Pa)を加えて育成させた氷単結晶をLCM-DIMで観察すると、塩化水素ガスは液滴状の液体層の出現を非常に促進させることが判明し[10]、この液滴状液体層には塩化水素ガスが溶け込んで塩酸となり、過飽和条件ではこの塩酸液滴が氷内に埋め込まれることが明らかとなった[11]。この結果は多量の大気ガス成分が氷内に流体包有物として含まれる可能性を示している(詳細は「A-AS06: 大気化学」セッションでも発表予定)。

[1] Sazaki et al. (2010) PNAS 107, 19702.
[2] Asakawa et al. (2014) Cryst. Growth Des. 14, 3210.
[3] Inomata et al. (2018) Cryst. Growth Des. 18, 786.
[4] Sazaki et al. (2012) PNAS 109, 1052.
[5] Murata et al. (2016) PNAS 113, E6741.
[6] Asakawa et al. (2015) Cryst. Growth Des. 15, 3339.
[7] Asakawa et al. (2015) PNAS 113, 1749.
[8] Sazaki et al. (2013) Cryst. Growth Des. 13, 1761.
[9] Murata et al. (2015) Phys. Rev. Lett. 115, 256103.
[10] Nagashima et al. (2016) Cryst. Growth Des. 16, 2225.
[11] Nagashima et al., submitted.