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[ACC29-08] グリーンランド深層アイスコアに含まれる固体微粒子のその場観察
キーワード:その場観察、固体微粒子、クライオSEM、NEEM アイスコア
アイスコアに含まれる不純物の成分や濃度の変動を調べることで、過去の気候・環境変動に関する情報を得ることができる。これまでアイスコアに含まれる不純物は、試料を融解して分析することが多かったため、氷の中での不純物の状態(粒子態として存在しているか、もしくは溶存態として存在しているか、および不純物の化学成分・大きさ・形態・空間分布等)を知ることは困難であった。本研究では、氷の中での不純物の状態を明らかにするため、クライオ走査型電子顕微鏡(クライオSEM)と光学顕微鏡を用い、NEEM(North Greenland Eemian Ice Drilling)計画で掘削されたアイスコア中の固体微粒子のその場観察を行った。クライオSEMを用いることで、氷を融解・昇華せずに、その中に含まれる固体微粒子を高分解能で直接観察することができた。先行研究から、SEMの真空環境および電子線の照射によって不純物の変質や元の位置からの移動が生じることが報告されているため(例えばBaker and Cullen, 2003)、クライオSEMでの観察に先立って光学顕微鏡観察を行い、固体微粒子がクライオSEM観察の際に変化しないことを確認した。また、クライオSEM観察と併せてエネルギー分散型分光分析装置(EDS)を用いて微粒子の元素分析を実施した。この方法により、氷の中での微粒子の空間分布・大きさ・形態・成分を明らかにした。氷期(1548 m深、約1万9千2百年前)の試料中では多くの粒子が氷の結晶粒内と粒界の両方に直線的に並んで存在していた。これらの粒子の多くは、大きさがμmオーダーであったが、 100 nm オーダーの微小粒子が凝集したものであった。一方、EDSの分析結果によると、粒子の多くがケイ酸塩であり、一部が硫酸カルシウムや炭酸カルシウムであった。これに対し、NEEMアイスコアの間氷期の試料(740 m深、約4千年前)を光学顕微鏡とラマン分光によって分析した先行研究は(Eichler et al., 2017; Kleitz, 2015)、多くの粒子が結晶粒内に存在しており、主な組成が硫酸塩であったことを報告しており、同一地点でも氷期と間氷期で微粒子の化学組成や存在状態に違いがあることが確認された。本研究で用いた方法と従来の融解分析法を併せて実施することで、過去の気候・環境変動をより詳細に復元することが期待される。
参考文献
Baker, I. and Cullen, D., 2003. J. Glaciol., 49 (165), pp. 184-190.
Eichler, J. et al., 2017, Cryosphere, 11, pp. 1075-1090.
Kleitz, I., 2015, MSc thesis, Martin-Luther Universitaet Halle-Wittenberg, Germany
参考文献
Baker, I. and Cullen, D., 2003. J. Glaciol., 49 (165), pp. 184-190.
Eichler, J. et al., 2017, Cryosphere, 11, pp. 1075-1090.
Kleitz, I., 2015, MSc thesis, Martin-Luther Universitaet Halle-Wittenberg, Germany