日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG38] 北極域の科学

2018年5月24日(木) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:津滝 俊(東京大学)、漢那 直也(北海道大学 北極域研究センター)、鄭 峻介(北海道大学 北極域研究センター、共同)、中村 哲(北海道大学大学院地球環境科学研究院)

[ACG38-P21] 北西グリーンランド氷床上 SIGMA-A サイトにおける雪面熱収支

*廣瀬 聡1青木 輝夫1,2庭野 匡思2的場 澄人3谷川 朋範2山口 悟4山崎 哲秀5 (1.岡山大学、2.気象研究所、3.低温科学研究所、4.防災科学技術研究所、5.アバンナット)

グリーンランド氷床は1990年代後半から氷床質量の損失の割合が年々増加していることが確認されている(Shepherd et al., 2012)。その原因は,主に夏季の氷床表面の融解量が増えることと,氷床から氷河を通じて海洋へ流出する氷山の量が増加することである(van den Broeke et al., 2009)。本研究では,SIGMAプロジェクト(Aoki et al., 2014)によって設置された自動気象観測装置(AWS)による観測データを用いて熱収支解析を行い,表面融解への寄与が大きい要因を明らかにすることを目的とする。観測場所は北西グリーンランド氷床上SIGMA-Aサイト(78°03’N, 67°38’W, 1,490 m a.s.l.)である。解析期間は2012年6月30日から2013年8月31日までとした。

解析結果から,雪面は基本的に短波放射と顕熱によって加熱,長波放射と潜熱によって冷却されており,表面融解は主に夏季の気温が正のときに起こっていた。特に,2012年7月はグリーンランド氷床において記録的な表面融解が発生した(Nghiem et al., 2012)。そこで,融解が顕著だった2012年7月と対照的に寒冷であった2013年7月の比較を行った。2012年7月の平均気温は,2013年7月に比べて3.9℃高い-0.2℃であった。また,雪面高度変化は2012年7月が-27 cmであった一方,2013年7月は+16 cmであった。2012年と2013年の7月における雪面熱収支の月平均値を比較したところ,両年の差が最も大きい熱収支要素は短波放射で、2012年は2013年を+18 Wm-2上回った。また,2012年7月の月平均近赤外域アルベドは2013年のそれに比べて15%低いが,月平均可視域アルベドはあまり変わっていないことから,2012年7月は気温上昇によって積雪粒径が増加していたと考えられる。以上のことから,積雪粒径の増加と近赤外域アルベドの低下による正のフィードバック効果が,2012年7月の表面融解に対して重要な役割を果たしていたと考えられる。

参考文献
Aoki et al., 2014: BGR, doi:105331/bgr.32.3.
Nghiem et al., 2012: GRL, doi: 10.1029/2012GL053611.
Shepherd et al., 2012: Science, doi: 10.1126/science.1228102.
van den Broeke et al., 2009: Science, doi: 10.1126/science.1178176.