日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG39] 熱帯インド洋・太平洋におけるマルチスケール大気海洋相互作用

2018年5月21日(月) 09:00 〜 10:30 201B (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:今田 由紀子(気象庁気象研究所)、東塚 知己(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、時長 宏樹(京都大学防災研究所、共同)、小坂 優(東京大学先端科学技術研究センター)、座長:東塚 知己小坂 優(東京大学先端研究所)

09:30 〜 09:45

[ACG39-03] インド洋と太平洋の複合効果に伴う季節的な降水・台風の変調

*植田 宏昭1三輪 夏菜2釜江 陽一1丹治 菜摘3 (1.筑波大学生命環境系、2.筑波大学生命環境科学研究科、3.筑波大学生命環境学群地球学類)

キーワード:地球温暖化停滞期、熱帯低気圧、台風、インド洋蓄熱効果、ENSO

20 世紀末から 21 世紀の初頭にかけての十数年間、世界的な平均地上気温の上昇はほぼ横 ばいで、地球温暖化の停滞期と呼ばれている。この期間の海面水温はインド洋における継続 した暖水偏差と太平洋のラ・ニーニャ的な海面水温(SST)パターンによって特徴付けられ る。この期間の東アジアにおける夏期降水量は減少傾向が続いていた。インド洋の暖水偏差 はフィリピン東方海上の高気圧性偏差の強化を介して、西太平洋上の対流活動を抑制する (インド洋の遠隔影響;[1])。インド洋と太平洋の SST を変えた感度実験により、西太平 洋上の対流活動は、ラニーニャに関係したローカルな暖水によって強化される一方、インド 洋からの遠隔影響によって抑制されていることが確かめられた[2]。それらの比率は2:1 の割合であるため、結果として西太平洋上の対流強化とそれに起因する P-J 強制の発現が 見られ、このことが前述の東アジアでの負の降水偏差の原因であると結論づけられる。

講演では、エルニーニョ現象とそれに連動して生じるインド洋の海面水温変動に対する 熱帯低気圧活動について、主にエルニーニョの衰退期に着目して調べた結果も紹介する[3]。 解析には、地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)による高 解像度の大気大循環モデルを用いた 100 アンサンブル過去実験(1951~2010 年)を用い た。エルニーニョは冬季に極大を迎え、引続く夏にかけて徐々に減衰するが、西太平洋上に おける熱帯低気圧の発生頻度は秋まで少ない傾向が持続していた。インド洋ではエルニー ニョに遅れて暖水偏差が出現し、これに伴う大気のテレコネクションを介して西太平洋上 では高気圧性循環が強化されることが確認され、このことがエルニーニョの消滅後の TC 活 動の抑制と密接に関係していることが示唆された。一方、南シナ海におけるエルニーニョ終 息後の 9~11 月の台風発生数は増加傾向を示していた。これは、インド洋の昇温の終焉に 伴う、西太平洋から南シナ海にかけての高気圧性循環の弱化と整合的である。これらの結果 は、熱帯低気圧活動や降水活動の季節的な変調を議論する際に、太平洋とインド洋の複合効 果を考慮する必要性を示唆する。

[1] Xie, S.-P., K. Hu, J. Hafner, H. Tokinaga, Y. Du, G. Huang, and T. Sampe, 2009: IO capacitor effect on Indo-western Pacific climate during the summer following El Niño. J. Climate, 22, 730–747.
[2] Ueda, H., Y. Kamae, M. Hayasaki, A. Kitoh, S. Watanabe, Y. Miki and A. Kumai: 2015: Combined effects of recent Pacific cooling and Indian Ocean warming on the Asian monsoon. Nature Communications, 6, 8854.
[3] Ueda. H., K. Miwa, and Y. Kamae, submitted: Seasonal modulation of tropical cyclone occurrence associated with coherent Indo-Pacific variability during decaying phase of El Niño.