日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG40] 陸域生態系の物質循環

2018年5月24日(木) 10:45 〜 12:15 106 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:加藤 知道(北海道大学農学研究院)、平野 高司(北海道大学大学院農学研究院)、佐藤 永(海洋研究開発機構 地球表層物質循環研究分野、共同)、平田 竜一(国立環境研究所)、座長:佐藤 永(海洋研究開発機構)

12:00 〜 12:15

[ACG40-06] ディープラーニングでリモートセンシングを「再発明」する

*伊勢 武史1,2 (1.京都大学フィールド科学教育研究センター、2.JSTさきがけ)

キーワード:ディープラーニング、ニューラルネットワーク、リモートセンシング

航空機・人工衛星・近年ではドローンなどの発達により、リモートセンシングは、地球表面の非破壊・非接触の観測に大きな貢献をしてきた。フィールド観測では到底観測しきれないエリアをカバーできるのがリモートセンシングの長所であり、また時間解像度が高いうえに、観測の同時性と均質性が保たれているのもメリットである。しかし、従来のリモートセンシングデータの解析は、各観測点(ピクセル)単独の情報のみを用いた、空間0次元のものが主流であった。これでは解析で得られるデータに限界があるため、可視光以外の放射を観測するためマルチスペクトル化を進めたり、人海戦術で航空写真から目視で状態を判別するなど、コストのかかる進歩や利用が多かった。

目視による判別は、コストはかかるが有効な方法である。人間は画像中のテクスチャ(空間2次元の情報)を認識し、それを分類することができる。従来のコンピュータ解析ではこのテクスチャ情報が捨てられていたので、目視による判別は、コストの問題・個人差の問題などが存在しても、依然としてリモートセンシングの分野で用いられ続けてきたのである。

コンピュータによる自動解析で、画像中のテクスチャを認識することができればすばらしい。これは当たり前の発想かもしれないが、その実現は進んでいなかった。デジタルカメラの顔認識など、コンピュータによる画像認識技術は発展いちじるしいが、それを可能にしている機械学習は、人の顔・自動車・イヌ・ネコといった、形のはっきりした対象物の識別に向いており、リモートセンシングで得られる植物の群落タイプの識別のような、不定形の対象物の識別は困難であると考えられてきたのである。

本研究では、画像認識技術として近年注目を集めているディープラーニングを用い、植物のテクスチャを自動識別する手法の開発を行った。これを実現するために必要なのは発想の転換であった。従来の機械学習における「教師画像」の概念では、植物の1個体、または1枚の葉の画像を教師画像とする必要があったが、開発した「chopped picture method」では、植物の群落が写った画像を細かく分割し、そのテクスチャの特徴量をディープラーニングで抽出するようにしたのである。

その結果、コケ植物・竹林・果樹園・人工林などをかなりの精度で自動的に識別できるようになった。さらには、種多様性の高い温帯針広混交林での樹種識別までも可能になりつつある。この画期的な技術は海外のメディアで紹介されるなどの注目を集め、日本国内でもすでに特許を出願している。Google Earthなど無償のリモートセンシングデータから、植物タイプの自動識別が可能になるとしたら、それは革命ではないだろうか。このようにリモートセンシングを「再発明」することで、環境諸学や生態学などの発展に寄与できると考えている。