日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG42] 沿岸海洋生態系─1.水循環と陸海相互作用

2018年5月24日(木) 10:45 〜 12:15 201B (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、小路 淳(広島大学大学院生物圏科学研究科)、山田 誠(龍谷大学経済学部、共同)、藤井 賢彦(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、座長:杉本 亮山田 誠

12:00 〜 12:15

[ACG42-10] 海洋健全度指数を用いた北海道東部沿岸域の環境評価

田村 全2仲岡 雅裕3、*藤井 賢彦1 (1.北海道大学大学院地球環境科学研究院、2.北海道大学大学院環境科学院、3.北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所)

キーワード:海洋健全度指標、沿岸環境、生態系サービス、北海道東部

最近の気候変動の影響により,私たちが今までと変わらず生態系サービスを享受することが困難になりつつある.現状打開のための対策が取られているが,生態系サービスの定量化が確立されていないため,対策による効果が正当に評価できていない.その要因の一つとして,生態系の機能に特化した評価と社会・経済学的評価との間に隔たりがあるため,包括的な評価が行われていないことが挙げられる.Halpern et al. (2012) により考案された海洋健全度指数は海洋にまつわる便益を機能的・社会・経済学的アプローチから定めた目標により包括的に評価できる.本指数では各目標に対する評価値を100点満点で算出することにより,各目標や各対象地の間の比較が可能である.本研究では北海道東部に位置するオホーツク総合振興局,根室振興局および釧路総合振興局の沿岸自治体を対象とし,本指数を適用することにより,対象域における沿岸環境と生態系サービスの利用に関する現状把握及び改善提言を行うことを目的とした.

海洋健全度指数は,食料供給,生計手段,経済など10個の指標で構成されているが,本研究では対象域内で定義が困難であり,データの取得が困難な零細漁業の持続性および海洋生産物を除いた8個の指標を用い,2010~2014年の5年間を対象年として評価を行った.それぞれの対象域で指標ごとに現況指数,トレンド指数とPressure and Resilience (PR)指数を定めた.これらの指数を用いて各指標に対する評価値を算出し,8個の目標の評価値を加重した上で合算し,総合評価値を算出した.

総合評価値はオホーツク総合振興局が85.4点で最も高く,根室振興局が51.5点,釧路総合振興局が71.7点となった.オホーツク総合振興局の高得点の理由として,食料供給や観光とレクリエーションで高い評価値を得たことが挙げられる.食料供給の高評価は,同振興局内で漁獲量の多いホタテガイとサケが高水準で推移したことが主な要因であると推測される.観光とレクリエーションの高評価は,網走市や斜里町をはじめとする自治体を訪れる観光客数が高水準を維持したことが要因であると考えられる.一方,釧路総合振興局では観光とレクリエーションでは評価値が高くなったが,食料供給の評価値が低いことがオホーツク総合振興局との総合評価値の差につながったと考えられる.

また,海洋健全度指数を中国の厦門市に適用した既往研究 (Ma et al., 2016) との比較を通じ,上記3振興局の環境・経済に関する目標の評価値は相対的に高いことがわかった.今後,この高い評価値を維持していくためには,環境モニタリングや調査を実施し,継続的な現状把握とさらなる改善に向けた施策が必要と考えられる.