[A-CG42] 沿岸海洋生態系─１．水循環と陸海相互作用

[ACG42-P07] 温泉排水が沿岸海域の魚類群集に与える影響

*小路 淳¹、山田 誠² (1.広島大学大学院生物圏科学研究科、2.龍谷大学)

キーワード：水―食料ネクサス、水産資源、温泉排水、別府湾、魚類群集

陸水が海域に流入することにより沿岸域の生産速度や生物多様性に影響を与える事例が多数報告されている．陸水の1つである温泉排水は，海水に比べて栄養を豊富に含み，水温が高い場合が多いため，沿岸海域の生物群集や生物生産に与える影響が大きいと想定される．国内有数の温泉観光地として知られる別府では，河川や沿岸域に温泉排水が直接流入している．高水温・富栄養な排水が注ぐ河口域では外来種（ティラピア類）が定着するなど，温泉排水による沿岸生態系への影響が報告されている．本研究では，温泉排水が沿岸域の生態系に与える影響を評価するための研究の一環として，別府湾の漁港内における魚類の出現状況をデジタルカメラによる画像解析により調査した．



温泉排水が確認されている漁港において、デジタルカメラを用いて海面から水中の様子を撮影した．2017年1月26 日（冬期），8月31日（夏期）に，温泉排水が目視で確認できる場所（温水区）と確認できない場所（対照区）をそれぞれ4ヶ所選定した．海面から1-2 mの距離にデジタルカメラを設置し，インターバル撮影機能を利用して1分ごとに約60分間の撮影を行った．各地点における魚類の出現頻度（魚類が撮影された写真の枚数/全撮影枚数×100）を算出し，温水区と対照区の間で比較した．撮影された画像に基づいて出現魚類の種同定を可能な限り行った．



冬期・夏期ともに温水区における魚類の平均出現頻度は対照区に比べて高かった．画像をもとに確認された魚種は，メバル属，メジナ，ボラ類などであった．当初は温泉排水と海水の温度差が大きい冬期に有為な差が見られると予想したが，夏期においても温水区における魚類の出現頻度が対照区に比べて高かった．以上の結果より，温泉排水を介して供給される栄養が魚類の分布に影響を与えている可能性も示唆された．