日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG43] 沿岸海洋生態系──2.サンゴ礁・藻場・マングローブ

2018年5月24日(木) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:宮島 利宏(東京大学 大気海洋研究所 海洋地球システム研究系 生元素動態分野)、梅澤 有(東京農工大学)、渡邉 敦(東京工業大学 環境・社会理工学院、共同)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)

[ACG43-P05] 石垣島マングローブ林内河川水中における溶存態無機炭素(DIC)濃度の時空間変動

*吉竹 晋平1近藤 美由紀2大西 健夫3友常 満利4金城 和俊5大塚 俊之1 (1.岐阜大学流域圏科学研究センター、2.国立環境研究所、3.岐阜大学応用生物科学部、4.早稲田大学教育・総合科学学術院、5.琉球大学農学部)

キーワード:炭素循環、溶存態無機炭素、マングローブ、有機物分解

熱帯-亜熱帯地域の汽水域に成立するマングローブ林は、高い土壌炭素量や生態系純生産量を示すことが知られている。この高い生態系純生産量は、樹木(マングローブ)の生産量(一次生産量)が高いことと、土壌微生物による分解量(従属栄養生物呼吸量)が低いことが要因とされている。しかし、潮汐の影響を受けるマングローブ林においては、土壌微生物による有機物分解産物である二酸化炭素(CO2)は、堆積物表面からのガス態で放出されるだけでなく、潮汐によって冠水した際に溶存態としても流出していく。現時点ではこの溶存態無機炭素(Dissolved inorganic carbon; DIC)の流出についての情報が不足していることが、マングローブ生態系における炭素循環や堆積物への炭素蓄積速度、沿岸域への炭素流出とその影響などを考える際の不確実性の一因となっている。近年、このDIC流出に焦点を当てた研究が増えつつあり、マングローブ域から海洋への流出量の定量やDICの起源解析等が進みつつあるが、亜熱帯マングローブ林における河川水中DIC濃度の時空間的変動に関する情報は限られており、域内でのDIC生成や河川水中への流出メカニズムについてはよく分かっていない。本研究では、亜熱帯マングローブ林を対象として、域内を流れる河川の複数地点におけるDIC濃度が潮汐や季節によってどのように変化するのかを調べることで、DIC濃度の時空間変動とその要因を明らかにすることを目的とした。

本研究は沖縄県石垣島北東部を流れる吹通川流域のマングローブ林で行った。このマングローブ域には3本の小河川が流入しているが域内で合流して1本の河川となり、海洋へと流れ出ている。2016年の3月および8月に、域内河川6地点と河口1地点において1時間間隔で約24時間にわたって採水を行った。また、マングローブ域外の上流側小河川3地点と海でも採水を行い、それぞれマングローブ域に流入する河川水(淡水)および潮汐によって海から域内へと流入する海水として扱った。また、2015年1月には域内河川1地点、2015年8月には同じ域内河川1地点と河口1地点で同様の24時間採水を行った。これらの試料のpHと塩分を電極法により測定した。また、試料のDIC濃度については、各試料にリン酸を添加することでDICをCO2ガス化させたのち、赤外線ガス分析計を用いた通気法により測定した。

マングローブ域内および河口のすべての採水点において、pHや塩分は概して満潮時に上昇し、逆にDIC濃度は干潮時に高くなるという日変化が見られたが、比高が高く潮位変動が小さな地点においてはその日変化は不明瞭であった。pHや塩分は各地点における水位との間に正の相関を示した。海水は淡水に比べて高いpH、塩分を有していたことから、この結果は潮位の上昇によって海水が域内へと流入したことによるものと考えられた。DIC濃度においても海水との混合による影響が予想されたため、淡水および海水が持つ塩分濃度とDIC濃度を用いて2成分単純混合モデルを作成し、そこに域内で観察された塩分濃度を入力することで淡水と海水の混合比から予想されるDIC濃度を算出し、実測値と比較した。その結果、特に干潮時における実測DIC濃度は推定DIC濃度よりも高く、その差は最大で1.6 mmolC L-1程度で、実測値は推定値の2倍程度にも達した。このことはマングローブ域内において多量のDICが河川水中に流出していることを意味しているが、実際のマングローブ域からのDIC流出を考える際には各地点における河川流量を加味してフラックスとして定量していく必要があるだろう。

このDIC濃度の推定値-実測値間の差は、同一地点であっても観測時期によって異なっており、採水前にまとまった降水があった時期や潮位変動が小さい時期(中潮~小潮)にはその差が小さくなる傾向があった。したがって、マングローブ域からのDIC流出の長期的な時間変動や年間流出量を考える際には、有機物分解に直接影響を及ぼす要因(温度など)の季節変化に加えて、上流からの淡水の流入や潮汐による海水の流入といった水文学的な要因を考慮することが重要であることが示された。

また、前述のDIC濃度差はマングローブ域内において空間的にも大きく異なっており、河口からの距離が同程度の地点であっても支流によって違いが見られた。観測地点によって流量が異なっていることに加えて、DICの生成量や河川水中への流出量が域内の小集水域によって異なっている可能性がある。今後はマングローブ域内での有機物分解活性の把握やその制御要因の解明、堆積物中で生じた二酸化炭素が河川水中へと移動する詳細なメカニズムについて理解を深める必要があるだろう。