日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG44] 地球惑星科学における航空機観測利用の推進

2018年5月22日(火) 15:30 〜 17:00 A08 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:高橋 暢宏(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、小池 真(東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻)、町田 敏暢(国立環境研究所、共同)、篠田 太郎(名古屋大学宇宙地球環境研究所)、座長:高橋 暢宏(名古屋大学宇宙地球環境研究所)

15:45 〜 16:00

[ACG44-02] 高高度SUAV運用に向けた高度変化に伴うプロペラの推力評価

★招待講演

*安河内 祐輔1齊藤 大晶1山本 真行1 (1.高知工科大学)

キーワード:プロペラ、高高度、推力係数

1. 背景と目的
 プロペラは飛行機で推進力を得る方法の一つとして利用されている.回転翼のレイノルズ数 Re 帯域は低レイノルズ数域と呼ばれ, 未だに未解明の部分がある.成層圏までの地球大気中で観測を行うための手法は限られており,本研究では希薄大気中での回転翼型ドローンを用いた観測手法の確立を検討した.現在ドローンの運用高度は約5000 m 付近までであり,さらに高高度域においての基礎的な数値検討と真空チャンバーを用い実測を行う.大気密度が低い条件でプロペラの推力がどれだけ得られるか定量的に確認する.それによってドローンが高高度で運用可能か具体的な知見を得る.さらに火星大気中で運用できる推力がプロペラで得られないか,推力試験により評価することを目的とする.
2. レイノルズ数とプロペララセン速度
 流体の粘性を表す物性値は動粘度であるが,流れに対する粘性の影響力を支配するのはレイノルズ数Re という無次元量である.流体の動粘度(動燃性係数)をν(m2/s) ,流れの代表速度をUt(m/s) ,流れ場の代表長さをL (m) とすれば,レイノルズ数Re は,Re=UtL/ν と定義される.
プロペラのラセン速度Ut (m/s) はプロペラの回転数n (1/s) ,飛行機の前進速度U (m/s) ,プロペラ径D (m) の関数で表される.回転方向速度は2πrn であり(ここでプロペラのスパン長r (m) ),進行速度はU である.ラセン速度Ut は回転方向速度2πrn ,進行速度U のベクトルの和からUt=√(U2+(2πrn)2)2 となる.
3. 推力理論式
プロペラの推力T (N) (ここでは参考文献[1]の表記に従うと)T (kgf) は,単位時間当たりの回転数n1s ,直径D m ,空気密度ρ(kg/m3)の関数で表される推力T の関数であり,その比例常数をCt とすると,プロペラの推力理論式として,T=Ct∙ρn2D4 が得られる.
4. 推力測定実験
 チャンバー実験として,研究室内の宇宙実験用真空装置を用い地球大気の高度0~18 kmを模擬した圧力条件を再現し,各種パラメータを変化させながら実験を行いAPCの6×4E , 8×6E , 11×7E のプロペラの特性評価を行った.実験環境として気温25 ℃ とし,真空引き後に,十分時間が経過してから実験を開始した.
 真空チャンバーには2つの圧力計(コールドカッソード・ピラニ真空計(cc),圧力トラデューサー式デジタル圧力指示計(pt))があり,本実験では両方の圧力計を用いた.
 11 inchプロペラで回転数が5000 rpmの場合の推力係数と高度の関係を図1に示す.
 圧力計ccでは波形が桶のような変化をしているが圧力計ptでは単調減少している.
5. 考察
 図1より推力係数の変化が圧力計ccでは桶のような変化をしており,高度10km以上で高度が上昇しているのに推力係数が上昇するという規則性のない変化をしている.圧力計ptでは高度上昇によって単調減少しており規則性がある.これらの状況と用いたコールドカソード・ピラニ真空計の資料より今回の実験した低真空域では圧力計ptのほうが正確であると結論づけた.以上より高度上昇によるレイノルズ数減少が推力係数低下を引き起こしており,推力係数を維持するにはプロペラのラセン速度を上げればよいことがわかる.そのためにはプロペラの仰角を上げるか,回転数を上げることで,ある程度はこの問題を解決することが可能である.
6. 結論
 本研究は,地球大気高高度域や火星大気中でのSUAV運用に向けたプロペラの推力評価を目的としてプロペラについての理論を調査し,市販のドローン用プロペラを用いて推力と回転数を計測可能な実験装置の開発を行った.本実験で用いたコールドカソード・ピラニ真空計(cc)では大気圧から数十 hPa は正確に測定できていない.トランスデュサー型圧力計(pt)に加えて大気圧から数十 hPa の帯域が得意な圧力計もシステム内に加える必要がある.
参考文献
[1] 公益社団法人 日本航空協会, 航空工学講座6 プロペラ, pp13-17, 2014.
[2] 東 昭, 航空工学(1), 機械工学選書, pp.139-212, 1989.
[3] 大塚光, 中村拓磨, 桐林星河, 永谷圭司, 吉田和哉, 高度変化に伴う回転翼型小型UAV用プロペラの推力低下の評価 , 2013-JSASS-OTK,2013.