日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気水圏科学複合領域・一般

[A-CG44] 地球惑星科学における航空機観測利用の推進

2018年5月22日(火) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:高橋 暢宏(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)、小池 真(東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻)、町田 敏暢(国立環境研究所、共同)、篠田 太郎(名古屋大学宇宙地球環境研究所)

[ACG44-P02] 航空機搭載フェーズドアレイ気象レーダの初期検討

*高橋 暢宏1 (1.名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

キーワード:航空機観測、レーダー

地球温暖化などによる気候変動の影響として危惧されることの1つとして、台風の強大化や強雨の増加などの降水システムの変化が挙げられる。特に台風については、観測の少ない遠隔地の海上で発生することや、予測が難しい急発達のメカニズムなどが未解明であるため、航空機観測のような現地まで行き、詳細な観測ができるツールは貴重である。その場(in-situ)観測に加えて、レーダなどのリモートセンシング技術は特に台風の立体構造や風速場の把握には有効な手段である。
気象レーダに関しては、最近の固体送信増幅器の性能向上や信号処理技術の進歩により、フェーズドアレイレーダの応用が進みつつある。フェーズドアレイレーダの利点は、アンテナ走査を電子的に行うことにより可動部をなくすことが可能になるとともに固体素子の利用により送信機のサイズを減らすことも可能であり航空機搭載にも向いている。フェーズドアレイ気象レーダの利用はここ数年のことであるが、わが国ではマルチパラメータ(二重偏波)のレーダの開発も進んでいる。
本報告では、台風観測を目標とし、日本国内で利用可能な航空機(MRJ、G-II、G-IVなどのジェット機)への搭載を想定したフェーズドアレイ気象レーダの初期検討結果について示す。検討は、まず台風観測における立体的な観測範囲や風速範囲などの要求条件や航空機搭載としての制約条件を設定し、そこから実現可能なレーダのパラメータを検討し、要求条件に対する達成可能性を明らかにするとともに、技術的なトレードオフを行う。
まず、ターゲットを台風とした時の要求条件としては、直径数十kmから数百kmの範囲を地表付近から高度十数kmまで立体的に観測することである。特に台風の場合、眼を取り囲む壁雲とその周辺を詳細に観測することが求められる。また、航空機の性能から飛行高度は最大で12-13km程度であり、時には十数kmに達する壁雲(上昇気流も強い)を避けて飛行する必要がある。また、壁雲付近の下層で水平風速が最大となるため、壁雲の外側の高高度から観測することになる。さらに航空機への取り付けの観点からアンテナのサイズは限定されるため、例えばポッドに取り付ける場合は数十cm程度になる。また、航空機の胴体への取り付ける場合は1m程度になると想定した。
これらの条件とレーダの技術的な実績をもとに基本仕様を以下のように決めた:周波数はXバンドまたKuバンド、観測範囲は30 kmから60km、送信出力は400W程度であり、二重偏波を用いる。レーダはドップラー効果を利用した視線方向の速度は計測できるが、風速場を推定するためには2台のレーダ観測が必要になるため、航空機の移動を利用して前方視と後方視観測から水平風速場の計測を実現する。立体観測と風速場観測の要求から走査角は少なくとも±20度は必要である。
フェーズドアレイ技術の利点を生かして効率的に観測を行うことを考えると、前方視と後方視観測をビームの切替を行うことにより、1つのアンテナで2台のドップラーレーダ観測が可能になる。2台のドップラーレーダでの観測から風速を見積もるためには2つのビームの見込み角が90度に近いことが理想である。一方で、航空機の飛行速度からターゲットの前方視と後方視の観測時間差は短い方が降水システムの変化などの不確定要素を減らすことできる。そこで、今回は機首方向に直交するする方向に対して±30度をビーム方向とした。これを1台のアンテナで実現するためには、フェーズドアレイのアンテナ素子間隔を密にしてグレーティングローブの出現する角度を広げる必要がある。
立体観測のためにも、アンテナ走査が必要である。例えば、航空機の高度以下の立体観測をする場合にはアンテナを45度下方に向け、±45度の走査を行う必要がある。
両方の走査を実現するためには2次元のフェーズドアレイシステムが必要であるが、二重偏波観測を実現するためには斜め方向のビームに対する偏波校正などに課題が残っている。既存技術で実現可能な方式としては、1次元フェーズドアレイ観測が考えられる。その場合には、2台のレーダをそれぞれ前方視と後方視に割り当てる。
この方式のレーダによるオペレーションを規定するものとして水平方向の分解能を考える。これまでの地上レーダの観測からすると水平分解能は百mから二百m程度であり、航空機の飛行速度を200 m/sとすると0.5秒から1秒の間に立体走査を完了させる必要がある。レーダのパルス繰り返し周波数(PRF)を観測レンジ(30 から60 km)から2000から4000 Hzとなり、積分パルス数を32バルスとすると、90度の走査範囲をビーム幅間隔でカバーするには0.9秒が必要となる。この観測条件で最終的に観測可能な感度を計算すると20dBZ程度のエコーは十分に観測できる。