10:45 〜 11:00
[AHW20-18] 伊勢湾流域を事例とした気候変動による水量・水質変化評価の試み
★招待講演
キーワード:SWAT、脱窒、気候変動
気候変動に対する陸域生態系の応答,それに伴う流域の水文・水質特性の変化は予測が困難である.陸域生態系における水・物質循環の素過程の定量化と精度向上とともにモデリングによる統合研究が必要不可欠である.本研究では,大小7河川からなる伊勢湾流域を対象として,SWAT(Soil Water Assessment Tools)を用いて気候変動による水量・水質変化の評価を試みた.第1に現在の気候条件下で対象河川の流量およびTN濃度の再現を試みた。キャリブレーションおよびバリデーション期間はそれぞれ2004~2006年,2007~2009年とし,2000回のLHS(Latin Hypercube Sampling)法を適用したところ流量に関してはNS値で0.6~0.8と比較的よい再現結果を得た。次に,TN濃度再現にあたっては農業用水・家庭用水の取水排水量および無機態窒素濃度,施肥量を考慮して再現を試みたが不確実性の幅が大きく,全体として計算値が過大評価になることから脱窒の正確な考慮の必要性が示唆された。続けて将来気候条件下での水量・水質計算を行った.HadCM3によるIPCCのA1Bシナリオ下での将来気候計算値に疑似温暖化ダウンスケーリングを施して得られた2090年の想定気象条件下で計算を行った。その結果,当該流域においては濃尾平野の北部において梅雨期の降水量が1.5~2倍程度に顕著に増加することに対応して木曽三河の流出量が同時期に増加すると計算された.また伊勢湾西岸の中小河川流域では降水量の顕著な減少が予測されており,これに応答した流量減少が見られた.他方,水質に関しては明瞭な傾向は見られなかったが,土壌有機物の増加による土壌中の窒素成分の増加の可能性が示唆された.構築したモデルにはダムや農業排水の河川流量への人為的影響が考慮されていないため,これらを考慮すること,および,脱窒等の水質形成機構を適切にモデルに組み込むことが今後の課題である.