日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW20] 流域の物質輸送と栄養塩循環-人間活動および気候変動の影響-

2018年5月21日(月) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:齋藤 光代(岡山大学大学院環境生命科学研究科)、小野寺 真一(広島大学大学院総合科学研究科)、細野 高啓(熊本大学大学院先導機構、共同)、Adina Paytan(University of California Santa Cruz)

[AHW20-P04] 企業が所有する森林の水源涵養機能定量化の試み ~「アサヒの森」を例として~

*佐藤 怜1加藤 ひかる1吉田 広人1松岡 洋一郎2小野寺 真一3 (1.八千代エンジニヤリング株式会社、2.アサヒグループホールディングス株式会社、3.広島大学大学院総合科学研究科)

キーワード:水源涵養機能、水収支解析、社有林、CSR

2015年に国連で採択された持続可能な開発目標SDGsの達成を目指し、また水に着目した環境経営を実現するために、アサヒグループホールディング株式会社(以下、アサヒGHD)ではさまざまな環境活動をおこなっている。そのうちのひとつが、広島県庄原市と三次市に位置する社有森「アサヒの森」の整備・管理事業である。CSRや社会貢献活動の一環として森林保全活動を行う企業は多くあるものの、保全対象とする森林が地域(または流域)の水資源に対してどの程度寄与するかを定量化している企業はまだ少ない。そこで本研究では、企業が所有する森林を対象として現地調査、水収支解析、水質分析などを実施し、地域の水資源に与える影響の定量化を目指す。これにより、社会性の高い企業活動について、その社会貢献度の数値化をはかる。


「アサヒの森」は、アサヒGHDが所有する15カ所の森林の総称であり、総面積は21.7km2にのぼる。森林の基盤岩は、大きく花崗岩と高田流紋岩に分類される。現地調査は2017年4月から11月にかけて森林内の主要河川の流量観測を実施した。観測結果より、基盤岩の種別により比流量が異なることが明らかとなった。水収支解析は、森林域における地下水涵養量を概算することを目的として、「アサヒの森」を包絡する一級水系江の川流域を対象として実施した。なお、水収支解析には、森林の蒸発散量の面的な評価に適する緒方ほか(2017)の提案方法を用いた。緒方ほか(2017)の提案方法は、森林蒸発散量の推計にあたり樹冠遮断蒸発、地面蒸発、蒸散を考慮することができ、また、降雪・積雪・融雪のプロセスをモデル化しているため、冬季に多くの降雪と積雪が認められる対象地域に適した手法であるといえる。水収支解析では、対象地域を1kmメッシュに分割し、月別に降水量、蒸発散量、表面流出量、地下水涵養量を推計した。なお、基盤岩中に浸透する水量の推計に必要な地下浸透率については、現地観測データおよびタンクモデルによる流出解析結果を踏まえて設定した。水収支解析モデルの妥当性は、江の川の流量観測データを取得し、観測値と計算値の比較により確認している。


現地調査結果を踏まえて実施した水収支解析の結果、「アサヒの森」全体での年間地下水涵養量は958万m3と評価された。これは、アサヒGHDの2016年の水資源使用量の約40%にあたる。また、基盤岩の地質が花崗岩である森は地下水涵養量が高く(平均684mm/年)、高田流紋岩である森は低い(平均395mm/年)結果となった。これは、高田流紋岩に比べて花崗岩は風化がすすみ、亀裂等を介して岩体内部に浸透しやすい構造となっているためと考えられる。以上のとおり本研究から、水源涵養効果の評価に地質条件を考慮することの重要性が確認された。