日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW22] 水循環・水環境

2018年5月24日(木) 09:00 〜 10:30 104 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:長尾 誠也(金沢大学環日本海域環境研究センター)、町田 功(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、飯田 真一(国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所森林研究部門森林防災研究領域水保全研究室、共同)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、座長:林 武司(秋田大学教育文化学部)、飯田 真一(国立研究開発法人森林総合研究所)、町田 功(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、長尾 誠也(金沢大学環日本海域環境研究センター)

09:45 〜 10:00

[AHW22-10] 田沢湖深層部における水温の経年変動

*林 武司1石山 大三2小川 泰正2Pham Minh Quyen2 (1.秋田大学教育文化学部、2.秋田大学大学院国際資源学研究科)

キーワード:田沢湖、水循環機構、酸性化、気候変動、深水層

東北日本の脊梁山脈である奥羽山脈の西側に位置する田沢湖(湖面標高:249m)は,国内最大の水深(最大水深:423m)を有するだけでなく,潜窪の容積も国内最大級である.田沢湖の成因については諸説あるが,2000年代以降は,カルデラ湖であるとの考えが有力である(鹿野ほか,2017;狐崎・山脇,2008).湖の周囲には,湖の成因と関連して形成されたと考えられている山々が連なるが,自然の恒常流入河川は,湖の南側に数条あるのみである.また,自然の流出河川は,現在では存在しない.田沢湖の水循環機構については,古くより様々に論じられてきたが(吉村,1937;田中,1925など),通年での全層の観測・調査データに乏しく,その実態については不明な点が多い.その一方で田沢湖では,酸性河川である玉川の希釈や発電を目的として,玉川河川水の導水が1940年より実施されている.この結果,田沢湖の全層が酸性化するとともに,金属元素濃度の増加や透明度の低下などが生じた.その後,玉川の酸性度を緩和する取り組みがなされたが十分な効果を得られなかったため,玉川に中和処理施設が建設されて1991年より稼働している.この結果,玉川の酸性度が緩和され,田沢湖水のpHも全層で上昇に転じた.これらの人為の環境変遷は,田沢湖の水循環機構に大きく影響してきたと考えられる.また,気候変動・地球温暖化に伴う気温の上昇も,湖面水温や導水の水温の上昇をもたらすことによって田沢湖の水循環機構に影響してきたと考えられる.本研究では水温に着目し,田沢湖の水循環機構の変遷や現状を把握することを目的として,自記圧力・温度計(分解能:0.001℃,確度:±0.002℃)を用いて湖水温の鉛直分布を2015年5月より繰り返し測定している.本発表では,深層部における水温の変動について報告する.
水深400mでは,2015年5月から2017年7月にかけて,0.03℃の上昇が認められた.また長期の変動については,1937年8月(吉村,1937)から2017年7月までの約80年間で0.42℃の上昇が確認され,特に中和処理施設が稼働し始めた1991年頃に水温が大きく上昇したことが示唆された.これらの結果は,田沢湖の水循環機構が時代とともに変化してきた,すなわち(1)玉川導水以前(自然状態),(2)導水開始~中和処理開始以前,(3)中和処理開始以降で水循環機構が変化してきたことを示していると考えられる.