日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW23] 流域の地下水・地表水における滞留時間と水・物質循環プロセス

2018年5月24日(木) 09:00 〜 10:30 106 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:辻村 真貴(筑波大学生命環境系)、水垣 滋(国立研究開発法人土木研究所寒地土木研究所)、勝山 正則(京都大学農学研究科、共同)、Gusyev Maksym(International Centre for Water Hazard Risk Management, Public Works Research Institute)、座長:Maksym Gusyev勝山 正則

09:20 〜 09:35

[AHW23-02] 山地源流域における湧水・地下水の滞留時間時空間変動に関する統合的研究

*辻村 真貴1榊原 厚一1勝山 正則2水垣 滋3Gusyev Maksym4山本 千里1杉山 歩1小川 万尋1加藤 憲二5山田 啄也2矢野 伸二郎6笹倉 直也6Morgenstern Uwe7Michael Stewart7 (1.筑波大学、2.京都大学、3.寒地土木研究所、4.水災害・リスクマネジメント国際センター、5.静岡大学、6.サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社、7.GNS Science, New Zealand)

キーワード:滞留時間、地下水、湧水、源流域

水循環研究において、水の滞留時間に関する情報は、基本的に最も重要でありかつ応用的な観点からもなくてはならないものである。とくに水源地である山地源流域における湧水・地下水の滞留時間は、その重要性にもかかわらず、従来十分な情報が得られていない。流域水循環における滞留時間推定には、水のインプットである降水中における水素・酸素安定同位体比の変動をシグナルとして用いる方法と、水の放射性同位元素、溶存希ガス濃度等、それ自体が時間情報を有するトレーサーを用いる方法とがある。安定同位体による手法は、流域における土壌水、地下水、渓流水を含めた水循環全体に関し、数年程度以内の比較的短い滞留時間を数ヶ月程度の精度により推定することが可能であるが、数年以上の滞留時間推定には向かない。一方、放射性同位元素、希ガス等による手法は、適切なトレーサーを用いることにより、1年以上の水の滞留時間に関し、1年の時間分解能により推定することが可能である。さらに近年では、水に含まれる微生物情報を地下水流動のトレーサーとして用いる試みもなされている。本研究においては、異なる手法により、我が国およびニュージーランドの源流域を対象とし、湧水・地下水の滞留時間に関する時空間変動とその要因を明らかにすることを目的とする。

 福島県山木屋地区にある世戸八山流域においては、おもに、斜面スケールの地下水から湧水における滞留時間の時空間変動を明らかにした。特筆される結果として、湧水の滞留時間は無降雨時においては流量が多いほど短く、流量が少ないほど長い特徴を示す一方、降雨時においては流量が多くなるほど湧水の滞留時間が長くなる明瞭な傾向を示した。降雨直後における地下水の滞留時間は無降雨時におけるそれに比較して長い傾向を示したことから、大規模出水時においては、表層近くの滞留時間が短い地下水が深層の滞留時間が長いそれにより置き換わり、湧水の滞留時間が長くなる傾向を示すものと考察された。一方、地下水中の微生物の多様性を門レベルにおいてみると、尾根等の涵養域に比べ谷底等の流出域および湧水中において、多様性度が高くなる傾向が認められた。すなわち、異なる流動経路からなる複数の地下水が混合することにより、湧水の微生物多様度が高くなるものと思量される。

 湧水・地下水の滞留時間における広域スケールの空間変動を検討する目的のため、北海道沙流川流域、福島県世戸八山流域、山梨県神宮川流域、滋賀県桐生試験流域、鳥取県奥大山源流域、ニュージーランド・クライストチャーチ市街地域において、湧水・地下水の採取、滞留時間、微生物情報の解析を行った。その結果、滞留時間の短い湧水・地下水ほど、全菌数は空間変動が大きく、一方滞留時間の長いそれは、全菌数が一定値に収斂する傾向がみられた。さらに、滞留時間の短い湧水・地下水中の微生物における多様度は高く、滞留時間の長い湧水・地下水のそれは低くなる傾向がみられた。また、堆積岩地域の湧水・地下水における滞留時間は、花崗岩地域のそれに比較し、空間的変動幅が大きい傾向がみられた。

 本研究により、源流の湧水・地下水は、その循環プロセスと地形、地質、生態系等、場の条件との関係により、滞留時間および微生物の菌叢における空間変動が生じていることが示された。さらに微生物情報が、地下水流動系調査のためのトレーサーとして利用可能であることが示唆された。