日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 熊本地震に伴う地表水と地下水の変化

2018年5月22日(火) 15:30 〜 17:00 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:嶋田 純(熊本大学大学院自然科学研究科)、中川 啓(長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科)、細野 高啓(熊本大学大学院先導機構、共同)、林 武司(秋田大学教育文化学部)、座長:嶋田 純(熊本大学先導機構)、林 武司(秋田大学教育文化学部)

16:20 〜 16:40

[AHW24-10] 震度7を引き起こした益城町の地下水環境

★招待講演

*原口 強1 (1.大阪市立大学大学院理学研究科)

キーワード:2016熊本地震、震度7、地下水環境、益城町

熊本市や益城町周辺地域に住む約100万人の水道水源は,ほぼ全てが地下水で賄われている.これを支えているのが火砕流堆積物中に胚胎する莫大な地下水で,標高400~500mの阿蘇カルデラが供給源である.ここでは、年間3000mm程度の降水量により豊富な地下水資源が維持されている.
益城町では震度7を観測した.集落内の道路で,横ずれ変位40cmの地震断層が現れた.しかし,1mを超す地震断層の変位が現れた堂園地区や福原地区では,断層直上の古い木造家屋が倒壊していない.一方,益城町の被害集中域の地下では軟弱地盤が確認され,これが地震動の周期に影響して木造家屋を倒壊させたとされている.
被災集落のある台地は9万年前に形成された非溶結阿蘇4火砕流堆積物からなり,陽当たりの良い南斜面にある.集落内には自噴井と湿地もあった.通常,非溶結の火砕流台地は地下水位が低く,軟弱な地盤は無い.ところが,集落の背後には湧水源をもつ溝状の谷川が3重に集落を取り囲む.これが環境を一変させた.川から台地に浸透した水は火砕流堆積物を風化させ,斜面に湧出して湿地を作り,流れ出た風化した堆積物は軟弱な火山灰質粘土を堆積させる.その結果,地下水位が高い緩傾斜の丘陵斜面が形成された.このように長時間堆積した堆積物は,地震動などの機械的な擾乱のために骨格構造が破壊されない限り,勾配のある地形でも自重を支えることができる「構造土」となっている.それが,今回の地震の揺れで骨格構造を失った .震度7の背景は火山灰質軟弱地盤であるが,その形成プロセスに豊富な地下水環境が大きく関わっていたのである.こうした地下水環境は地形に特徴が現れる.台地に刻まれた細長い溝状地形の源頭部にある丸い谷頭地形である.これは湧水源が台地を浸食することで形成され,熊本を代表する江津湖の上流部にも同じ地形がある.
活断層地震では,断層沿いの幅数kmの細長い範囲に激しい被害が集中する.だが,卓越する地震動は地盤条件によって異なる.震度7を記録した益城集落は,丘陵でありながら火山灰質軟弱地盤がその素因となった.これは従来の知見にはない.それは豊富な地下水環境に原因があった.同様の活断層が伏在する火山灰質丘陵は全国に存在することから,この事例は地震防災上考慮すべき教訓となった.