日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW24] 熊本地震に伴う地表水と地下水の変化

2018年5月22日(火) 10:45 〜 12:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:嶋田 純(熊本大学大学院自然科学研究科)、中川 啓(長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科)、細野 高啓(熊本大学大学院先導機構、共同)、林 武司(秋田大学教育文化学部)

[AHW24-P04] 熊本地震前後における湧水の湧出環境変化ー地下水年代トレーサーを用いた検討ー

*井手 淨1深水 慶介5徳永 貴大3利部 慎2細野 高啓1嶋田 純4 (1.熊本大学大学院先導機構、2.長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科、3.サンコーコンサルタント(株)、4.熊本大学大学院自然科学研究科、5.熊本大学理学部)

キーワード:滞留時間、湧水、クロロフルオロカーボン類

2016年4月14日と16日に発生した熊本地震後、湧水池の枯渇や流出量の変化が確認された。地上で起こったこれらの現象から、地震によって地下水流動プロセスが変化したことが容易に想像できる。このような地下水流動プロセスの変化は、熊本地域で広く発生しているものと思われるが、その全てにおいて地上で目に見える形で発生するとは限らない。そのため、地下水流動プロセスの変化が発生した地域を把握するには、地震発生以前からの水文情報を基に、地震前後での比較を行う必要がある。

熊本地域は、東部に位置する阿蘇外輪山西麓や白川中流域から、西部の熊本平野に向かう地下水流動系を有する。また地下水利用が盛んで、地下水モニタリングが行政を中心に数十年に渡って実施されてきた。そのため、大規模地震の発生に伴い変化した地下水流動プロセスの把握に必要な水文データが存在する。しかしながら、地下水の地表面流出現象である湧水は、モニタリングに基づく長期的なデータが無い。その代わり、湧水の分布や湧出にかかる水文地質状況が既往研究にて報告されている。

地下水や湧水の滞留時間データは、地下水研究における重要な水文情報であり、近年では化学トレーサーを用いた湧水や地下水の年代(滞留時間)推定研究が熊本でも実施されてきた。化学トレーサーを用いて滞留時間を推定する手法の中でも、CFCsやSF6といった大気中寿命が長い可溶性ガスを用いる手法は、3Hなどの他手法と比べて分析が比較的容易でかつ時間分解能も高いことから、近年報告例が増えている。特に滞留時間の短い浅層地下水からの影響が大きい湧水には、CFCsやSF6は最適な手法と言える。

以上を踏まえ本研究では、熊本地域から阿蘇地域にかけての湧水のサンプリングとCFCsを始めとする化学トレーサーを用いた地下水年代推定を実施した。その上で、過去(2010年)に同一地点で測定・解析された湧水の化学トレーサー情報との比較を行うことで、熊本地震前後での湧出機構の変化を把握・検討することを目的とした。

熊本地域平野部に位置する湧水は、従来より、滞留時間の解析可能な濃度範囲よりも高いCFC-12濃度を保持する傾向が報告されている。CFCsは工業用・家庭用家電の冷媒ガス等で広く使用されており、熊本平野内部は人口密集した都市域にあたるため、人為的な何らかの要因により、高いCFCs濃度を持つ地下水が局所的に付加した可能性がある。これら平野部の湧水は、2017年のCFC-12濃度が、2010年時点より更に高い濃度に推移していた。このことに鑑みると、熊本平野内部の湧水形成過程では、高いCFC-12濃度を保持する都市域周辺の地下水の流入割合が熊本地震後に増加した可能性を示唆している。

また、滞留時間解析が可能であった平野以外の地域の湧水についても、2017年に採水・測定したCFC-12濃度は2010年の値より上昇していた。これらの湧水にたいする滞留時間解析を踏まえた考察と、地震前後における流動プロセスの変化については、本発表にて報告予定である。