日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW25] 同位体水文学 2018

2018年5月23日(水) 10:45 〜 12:15 301B (幕張メッセ国際会議場 3F)

コンビーナ:安原 正也(立正大学地球環境科学部)、座長:浅井 和由(地球科学研究所)、安原 正也(立正大学地球環境科学部)

10:45 〜 11:10

[AHW25-06] 水蒸気同位体データ同化による気象予測改善

★招待講演

*多田 真嵩1芳村 圭1 (1.東京大学 生産技術研究所)

キーワード:水蒸気同位体、データ同化、数値予報モデル

水の安定同位体は相転移に敏感であり、HDOやH218Oといった比較的重い安定同位体は普通の水分子と比較すると凝結しやすく、また蒸発しにくい性質をもつ。故に大気中の各水蒸気同位体の時空間分布は大気循環場や地形などに大きく依存している。この性質を利用して水の安定同位体は古気候や大気、水循環など、幅広く研究に用いられており、その中で Yoshimura et al.( 2014 : 以降Y14 )は水蒸気同位体を用いたOSSE(Observation system simulation experiments )を行い、仮想的に設置した観測網から得た水蒸気同位体が気象場を拘束できることを示唆した。またここ最近の人工衛星などによるリモートセンシングの技術の向上に伴い水蒸気同位体のデータ取得量が大幅に向上してきている。そこで、本研究では実際に人工衛星MetOpに搭載されているthe Infrared Atmospheric Sounding Interferometer( IASI )から得たデータを用いてデータ同化を行い、水蒸気同位体が将来の気象場を時空間的にどれほど拘束できるのか、現在行われてきている衛星分光計による水蒸気同位体の観測は水循環過程を解明する上でどのような影響があるかを定量的に検証することを目的とする。

本研究では数値モデルである同位体全球大気モデル、Isotope-incorporated Global Spectral Model ( IsoGSM )とデータ同化システムである局所アンサンブル変換カルマンフィルタ、local ensemble transform Kalman filter( LETKF )を使用する。以下にそれらの概要を説明する。本研究で使用する数値予報モデルIsoGSMはYoshimura et al ( 2008 ).によって米国環境予測センターとスクリプス海洋学研究にて開発されてきた大気大循環モデルGSMに水蒸気同位体であるHDOとH218Oを予報変数として組み込み構築された。水蒸気の移流、対流に過程で生じる凝結、蒸発に伴う同位体分別が詳細に定式化されている。使用するデータ同化システムであるLETKFは従来のデータ同化システムよりも計算効率性が高くコストが軽いのが特徴である。計算の流れとしては初期値として摂動を与えた20のアンサンブルメンバーの作成→モデル( IsoGSM )が第1推定値を計算→LETKFによるデータ同化→解析値(予報値)の作成→解析値を初期値としてモデルが第一推定値を作成→の繰り返しとなる。現在、実測データを使って計算する前の準備段階としてOSSEを行い、それによって得た水蒸気同位体比をデータ同化しシミュレーションを行った。 OSSE は人工衛星からδDの気柱量平均、600 hPa における δD を、地表面からGNIPが地表面の δ18O を取得することとして全球に約400 点の仮想的な観測網の設置を想定して行った。Y14でも行われた OSSE は2006年1月のみだったが、長期runではどのような挙動が見られるかを確認するため長期runを行い、 解析を行っている。

結果は以下に記すとおりである。データ同化、非データ同化について、水蒸気同位体を含む気象パラメータの観測値に対する予報値のRMSDを全球とGNIPの観測点付近に分けて計算した。一般的には各層において計算序盤ではデータ同化した方がしていない方よりも精度よく計算できているが時間が経つにつれてRMSDが大きくなる事が確認できた。また高層になるにつれても、RMSDが大きくなることも確認出来た。しかし観測点に近い場所且つ、同化した気象パラメータに限ってはそれに当たらず、長期間に渡って精度よく計算されていた。データ同化した方では高層で大きいエラーが生じていたためkinetic energy 等をみてみた所、低層と比較すると高層で波数の大きい所でエネルギーが大きい事が分かった。

これらの解決策は大きく分けて2つに考えられる。1つは「モデルを修正する方法」である。例えば高層における高波数のkinetic energyを小さくするために水平拡散における拡散係数を大きくする方法が挙げられる。2つ目は「データ同化システムを改良する方法」である。先にも述べた通り同化している同位体は地表面付近、600 hPa 、気柱平均量であるが、モデル内では最上層は30 km以上の成層圏下層~中層の高度である。地表面や 4 km程度の水蒸気同位体を30 km に同化させていることになるが、これは極端に言えばそれぞれ関係ないものを無理矢理関連付けさせているようなものでこれが上層での大きいエラーを引き起こしている可能性がある。従って層に対して一様にデータ同化を行うのではなく、高層になればなるほどデータ同化の影響を少なくさせるといった方法が有効であると考えられる。現在、前者の実験を行い変化前との変様を見た。具体的には拡散係数を最下層で1倍、最上層で10倍、最下層で1倍、最上層で100倍と層に重みをつけて実験を行った。結果としては改変前と比べて大きな変化はなかったため今後はデータ同化システムを改変し、OSSEを行い、改良が施した後、IASIが取得した実測データを使って実験を行う予定である。