日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW26] 都市域の水環境と地質

2018年5月23日(水) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:林 武司(秋田大学教育文化学部)、西田 継(山梨大学大学院総合研究部国際流域環境研究センター)、鈴木 弘明(日本工営株式会社 中央研究所、共同)、浅田 素之(清水建設株式会社 技術研究所)

[AHW26-P03] ALOS/PALSARによって検出された埼玉県中央部における地下水揚水に伴う地盤変動

*八戸 昭一1森下 遊2濱元 栄起1林 武司3宮越 昭暢4 (1.埼玉県環境科学国際センター、2.国土地理院、3.秋田大学、4.産業技術総合研究所)

キーワード:地盤沈下、地下水、合成開口レーダ

関東平野中央部に位置する埼玉県の地盤沈下は昭和20年代後半に南部を中心に注目され始め、昭和30年代の前半には荒川低地の南部と中川低地の南部において沈下量の増大が目立つこととなった。その後、工業用水法やビル用水法などの地下水揚水規制により、地下水位(水理水頭)は昭和40年代後半を境に劇的に回復するとともに沈下速度も改善しており、その傾向は現在も続いている。地盤変動の監視としては、昭和36年から毎年水準測量を実施しており、平成27年度は水準基標596点、路線総延長1,127km(埼玉県940km、国土地理院66km、さいたま市121km)の水準測量を実施している。これらの水準測量結果は、年度単位の地盤沈下量分布図や5年もしくは10年単位の累積地盤沈下量図などにとりまとめられてきたが、それらの成果から、地域の地盤変動と地下水揚水の関係を議論することは必ずしも十分にはできなかった。

一方、近年では人工衛星や航空機に搭載された合成開口レーダー(以下、SARと呼ぶ)による地盤変動解析技術が様々な分野で成果を上げてきている。そこで、本研究では平成18年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた陸域観測技術衛星「だいち」の観測データを使用した干渉SAR時系列解析(以下、PSIと呼ぶ)の結果を基に、埼玉県中央部(平野部)における地盤変動を地下水揚水の観点から考察した。PSI法は多量のSARデータを統合的に解析する手法であり、建物など時間とともに表面状態が変化しにくい点(PS点)を抽出し、その変動速度を求めるものである。SARは原理上、斜め下方向(衛星視線方向。以下LOSと呼ぶ)の衛星-地表間距離の一次元変化しか検出することができない。そこで、LOS方向が異なる北行軌道と南行軌道の解析結果を組み合わせることにより、準上下方向の変動量を求めた(2.5次元解析)。なお、当該地域には膨大な量のPS点が存在することから、200m間隔にデータを間引いて解析を実施した。また大気補正の数値気象モデルを使用した対流圏誤差低減処理を施し、軌道誤差低減のため解析範囲全域の位相傾斜をフラットにする補正を実施した。

解析対象地域における平成18年~平成23年における地表面と垂直方向(準上下方向)の平均変位速度(mm/年)結果から、沈下傾向は、大宮台地南部や荒川低地下流地域、そして武蔵野台地北部にあたる川越台地の南部地域などに確認された。一方、安定~隆起傾向を示したのは、大宮台地の北部、荒川低地の中流域、そして入間台地や川越台地の北部地域などであった。沈下傾向を示した地域では、解析期間(H19~H22年)の数年前から地下水揚水量が増加する傾向がみられたのに対して、安定~隆起傾向をした地域では、地下水揚水量が一定もしくは減少する傾向をもつことが確認された。
本発表では、埼玉県中央部における地盤変動傾向と地質条件や地下水揚水との関係を考察し、都市域の地盤沈下問題について議論する。