日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS09] Marine ecosystems and biogeochemical cycles: theory, observation and modeling

2018年5月23日(水) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:伊藤 進一(東京大学大気海洋研究所)、平田 貴文(北海道大学地球環境科学研究院)、Eileen E Hofmann (共同)、Enrique N Curchitser (Rutgers University New Brunswick)

[AOS09-P08] 耳石酸素同位体比の高解像度分析による同一産地マイワシの魚群識別

*青野 智哉1大内 翔1尾田 昌紀2安田 十也3南條 暢聡4高橋 素光3西田 梢1坂井 三郎5石村 豊穂1 (1.茨城工業高等専門学校、2.鳥取県水産試験場、3.水産研究・教育機構西海区水産研究所、4.富山県農林水産総合技術センター、5.海洋研究開発機構)

キーワード:耳石、酸素安定同位体、マイワシ

マイワシ(Sardinops melanostictus)は過去約3000年の間,周期的に存在量が変動していることが報告されている(Kuwae et al., 2017).近年では日本近海におけるマイワシ漁獲量が数十年で約150分の1まで激減したが(水産庁, 2011),その要因はよくわかっていない.この変動要因を解明するためには,まずマイワシの基礎的な生態情報(産卵場所や回遊経路などの生息環境)を解明する必要がある.この生息環境推定には魚類の内耳に形成される耳石が活用されてきた.
耳石は炭酸カルシウム(アラゴナイト)の結晶からなる硬組織で一度結晶化すると代謝されないため,個体の経験した環境履歴が経時的に保存されているという特徴を持っている.さらに稚仔魚期には,核を中心に同心円状の成長輪 (日周輪) を約1日に1本形成する.この炭酸カルシウムの酸素安定同位体比(δ18O)は,一般に海水δ18Oと水温の2要素に依存することが知られており(Kim et al., 2007),また,近年の研究では複数の魚種について耳石δ18Oの温度依存性が報告されているため,魚類が経験した水温履歴の推定が可能になってきている.
本研究では日本海産マイワシを研究対象に,微小領域切削技術(Geomill326)と微量安定同位体比分析法(MICAL3c)を活用し,日本海マイワシの高解像度での回遊履歴推定を試みた.試料は2015年に鳥取沖(隠岐周辺,2/25)・長崎(地先,3/17)・富山湾(4/23)の3海域で水揚げされたマイワシの耳石を用い,(1)産地による回遊経路の違いの有無を明らかにするとともに,(2)複数個体分析による同一魚群中の個体差の有無も検討した.
結果,各産地のマイワシ耳石はそれぞれ異なるδ18O変動を示し産地ごとの回遊経路の違いが明確となった.鳥取沖マイワシに関しては,6個体の同位体履歴を比較した結果,耳石の中心(核)から約600μm以降(生後約80日以上に相当,Ohshimo et al., 1997)でδ18O が低いグループ(-0.49 ± 0.18 ‰)と高いグループ(-0.05 ± 0.20 ‰)の2つに,明確に別れることがわかった.このことから,鳥取沖マイワシは2つの回遊履歴の異なる2つの群れが混在しており,それらは約80日前後から全く異なる水温履歴を経験していることを識別することができた.
本研究では,高解像度回遊履解析によって,回遊経路の差違を特定すると同時に,マイワシの群れの形成時期の推定による生態情報の抽出を実現した.