[AOS09-P09] 温度飼育実験より得られたマイワシ耳石の酸素・炭素安定同位体比
キーワード:耳石、酸素同位体比、炭素同位体比、イワシ類、水温、魚類
魚類耳石の酸素同位体比(δ18O)は、魚類の回遊履歴推定のための水温指標として注目されている。このようなδ18O水温計による水温推定を高精度化するためには、個別の魚種で水温と同位体比の関係を検討する必要がある。Sakamoto et al. (2017)では、マイワシの水温飼育実験を実施し、耳石のδ18O水温計を提案した。ただし、この飼育実験では、(1)飼育期間の成長が分かるように耳石にマーキングしておらず、日輪から成長部位を推定して分析試料をサンプリングしている、(2)飼育期間が30日と短めだったため耳石の成長部位が少ない、(3)δ18O分析用の海水のサンプリングは週1回以下の頻度、などの点から、より精度の高い飼育実験手法で再現性を確かめる必要があった。そこで、本研究では、飼育期間における耳石の成長部位を判別できるように耳石にマーキングを施し、60日の飼育期間で海水のサンプリング間隔を増やして、マイワシの3段階温度飼育実験により耳石のδ18Oの水温依存性を検討した。さらに、耳石の炭素同位体比(δ13C)は海水の溶存無機炭素のδ13C値および代謝由来の炭素のδ13C値の影響を受けることが知られているため、同じ海水で水温を調整した今回の実験では、水温と関連した生理・代謝の変化が耳石のδ13Cに記録されている可能性がある。そこで、耳石のδ13Cについても温度や耳石の成長との関係を検討し、耳石に記録された代謝の情報について議論した。
須崎湾(高知県)にて採取されたマイワシ個体について、国立研究開発法人水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所伯方島庁舎にて温度飼育実験を実施した(各水温区の水温平均:13.9°C, 19.2°C, 24.2 °C)。飼育実験前には、飼育期間に成長した部位が分かるように、標本をAlizarin complexone (ALC, 5ppm)に一昼夜浸漬させ、耳石にマーキングを行った。実験後、飼育個体から耳石を摘出し、微小領域切削装置Geomill326を用いて、同位体比分析用試料の切削を行った。炭酸塩試料は、茨城工業高等専門学校が保有する微量炭酸塩同位体比分析システム(MICAL3c with IsoPrime 100)で炭素・酸素安定同位体比分析を実施した。
耳石は高温で飼育した個体のものほど、よく成長していることが分かった。同位体比分析用試料は、いずれの温度区からも4試料以上切削することができた。耳石と海水のδ18O値から、以下のδ18O-温度関係式を作成した。
δ18Ootolith – δ18Oseawater = –0.16 × T + 2.56 (R2 = 0.96, P < 0.01) (N = 17)
Sakamoto et al. (2017)では、マーキングを行っていないマイワシ試料を用いて、同様にδ18O-温度関係式 (δ18Ootolith – δ18Oseawater = –0.18 × T + 2.69) を提案した。彼らの関係式と、ALC染色により成長部位を厳密に評価して切削を行った本研究の関係式は類似していたため、マイワシの水温推定にはいずれの関係式も有用であることを再評価することができた。本研究とSakamoto et al. (2017)では実験に用いた個体の採取場所や実験時期が異なるが、このような違いはマイワシのδ18O水温計にはあまり影響を与えないことが分かった。耳石のδ13C値は水温と有意な負の相関を示し、さらに耳石成長速度とも有意な負の相関がみられた。したがって、水温と関連した生理・代謝の変化を耳石の炭素同位体比に記録している可能性がある。
須崎湾(高知県)にて採取されたマイワシ個体について、国立研究開発法人水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所伯方島庁舎にて温度飼育実験を実施した(各水温区の水温平均:13.9°C, 19.2°C, 24.2 °C)。飼育実験前には、飼育期間に成長した部位が分かるように、標本をAlizarin complexone (ALC, 5ppm)に一昼夜浸漬させ、耳石にマーキングを行った。実験後、飼育個体から耳石を摘出し、微小領域切削装置Geomill326を用いて、同位体比分析用試料の切削を行った。炭酸塩試料は、茨城工業高等専門学校が保有する微量炭酸塩同位体比分析システム(MICAL3c with IsoPrime 100)で炭素・酸素安定同位体比分析を実施した。
耳石は高温で飼育した個体のものほど、よく成長していることが分かった。同位体比分析用試料は、いずれの温度区からも4試料以上切削することができた。耳石と海水のδ18O値から、以下のδ18O-温度関係式を作成した。
δ18Ootolith – δ18Oseawater = –0.16 × T + 2.56 (R2 = 0.96, P < 0.01) (N = 17)
Sakamoto et al. (2017)では、マーキングを行っていないマイワシ試料を用いて、同様にδ18O-温度関係式 (δ18Ootolith – δ18Oseawater = –0.18 × T + 2.69) を提案した。彼らの関係式と、ALC染色により成長部位を厳密に評価して切削を行った本研究の関係式は類似していたため、マイワシの水温推定にはいずれの関係式も有用であることを再評価することができた。本研究とSakamoto et al. (2017)では実験に用いた個体の採取場所や実験時期が異なるが、このような違いはマイワシのδ18O水温計にはあまり影響を与えないことが分かった。耳石のδ13C値は水温と有意な負の相関を示し、さらに耳石成長速度とも有意な負の相関がみられた。したがって、水温と関連した生理・代謝の変化を耳石の炭素同位体比に記録している可能性がある。