13:45 〜 14:00
[AOS17-01] 解像度2kmネスト・モデルを用いた日本沿岸海況の再現 2: 沿岸水位変動の再現性
キーワード:沿岸モデル、検潮所データ、水位変動、潮汐、気圧応答、異常潮位
気象庁は、瀬戸内海を対象とした沿岸海況監視予測システムを構築し、その現業試験運用を2016年から開始した。現在、我々は次期システムに向けて、水平解像度2km等の基本仕様は瀬戸内海モデルを踏襲しつつ、領域を日本沿岸全域へ拡張する海洋モデル「MRI.COM-JPN」の開発を行っている。その概要を報告した日本海洋学会2016年度秋季大会に続き、本発表では沿岸検潮所データを用いた水位の検証結果を示す。
開発したモデルは、気象研究所共用海洋モデルMRI.COM ver.4(2015年度秋季大会で発表)を基盤に用いて、全球、北太平洋、日本近海の3つを双方向結合した2段階ネスト・モデルである。瀬戸内海モデルからは、潮汐主要8分潮や海面気圧の押し下げ・吸い上げ効果といった水位変動を引き起こすプロセスを新たに導入している。JRA-55較正データの大気強制を用いて北太平洋モデルを30年スピンアップした後、2008年1月1日から日本近海モデルを結合して駆動し、2009年の1年間の実験結果を検証に用いた。この実験は、データ同化を用いない、いわゆるフリーラン実験であるが、2016年度秋季大会で示したように、海面水温場の季節発展や沿岸前線など基本的な海況はよく再現されている。水位の検証には186ヶ所の1時間毎検潮所データを用いる。物理量としては水位だけだが、日本沿岸全体をカバーする高サンプリングの恒常的な観測であり、沿岸モデルの検証に適した貴重な観測データである。
まず、沿岸水位変動の最大の要因である潮汐の再現性を調べるためにモデル水位の調和解析を行った。その結果、主要分潮について、潮汐解析データ(FES2014)とよく一致する振幅・位相の分布が得られた。検潮所データとの比較では、例えばM2潮の潮位振幅の誤差は10.4cm(二乗平均平方根誤差、以下RMSEと表記)と、振幅自体の大きさ44cmに対して24%以下であり、位相誤差も平均8.7度と小さい。本モデルでは理論的な平衡潮汐ポテンシャルのみを用いたにも関わらず、沿岸の潮位変動を現実的に再現したと言える。次に、潮汐以外の変動の再現性を評価するために日平均水位を用いてモデルを検証したところ、各検潮所の時系列にモデル水位はよく追随していた。定量的な指標では、RMSEは7.3cm、相関係数は0.86であった。また、全体の変動のどれ程を再現したかを示す捕捉率は70%、誤差が15cm以下の時間の割合を示すF値は95%であった。沿岸モデルの検証に用いられる指標を見る限り、フリーラン実験でも良い結果が得られている。我々は本モデルに対してデータ同化を施した解析ランも実施しており、そこではRMSE 4.4cm、相関係数 0.94、捕捉率89%、F値99%と各種スコアはさらに向上する。上記のような全体的な指標に加えて、水位変動の顕著事例についても個別に検証を行っている。例えば、台風通過から数日後に水位が50cm以上も上昇した、2012年9月の山陰沿岸の事例について実験を行い、水位上昇のタイミング、振幅ともよく再現することに成功した。この再現実験では、解像度約1.25度のJRA-55較正データの代わりに、解像度5kmの気象庁風・気圧データを用いることで再現性が明らかに向上することも分かった。発表では、風・気圧データの解像度が水位再現性に与える影響についてより定量的に示す予定である。
開発したモデルは、気象研究所共用海洋モデルMRI.COM ver.4(2015年度秋季大会で発表)を基盤に用いて、全球、北太平洋、日本近海の3つを双方向結合した2段階ネスト・モデルである。瀬戸内海モデルからは、潮汐主要8分潮や海面気圧の押し下げ・吸い上げ効果といった水位変動を引き起こすプロセスを新たに導入している。JRA-55較正データの大気強制を用いて北太平洋モデルを30年スピンアップした後、2008年1月1日から日本近海モデルを結合して駆動し、2009年の1年間の実験結果を検証に用いた。この実験は、データ同化を用いない、いわゆるフリーラン実験であるが、2016年度秋季大会で示したように、海面水温場の季節発展や沿岸前線など基本的な海況はよく再現されている。水位の検証には186ヶ所の1時間毎検潮所データを用いる。物理量としては水位だけだが、日本沿岸全体をカバーする高サンプリングの恒常的な観測であり、沿岸モデルの検証に適した貴重な観測データである。
まず、沿岸水位変動の最大の要因である潮汐の再現性を調べるためにモデル水位の調和解析を行った。その結果、主要分潮について、潮汐解析データ(FES2014)とよく一致する振幅・位相の分布が得られた。検潮所データとの比較では、例えばM2潮の潮位振幅の誤差は10.4cm(二乗平均平方根誤差、以下RMSEと表記)と、振幅自体の大きさ44cmに対して24%以下であり、位相誤差も平均8.7度と小さい。本モデルでは理論的な平衡潮汐ポテンシャルのみを用いたにも関わらず、沿岸の潮位変動を現実的に再現したと言える。次に、潮汐以外の変動の再現性を評価するために日平均水位を用いてモデルを検証したところ、各検潮所の時系列にモデル水位はよく追随していた。定量的な指標では、RMSEは7.3cm、相関係数は0.86であった。また、全体の変動のどれ程を再現したかを示す捕捉率は70%、誤差が15cm以下の時間の割合を示すF値は95%であった。沿岸モデルの検証に用いられる指標を見る限り、フリーラン実験でも良い結果が得られている。我々は本モデルに対してデータ同化を施した解析ランも実施しており、そこではRMSE 4.4cm、相関係数 0.94、捕捉率89%、F値99%と各種スコアはさらに向上する。上記のような全体的な指標に加えて、水位変動の顕著事例についても個別に検証を行っている。例えば、台風通過から数日後に水位が50cm以上も上昇した、2012年9月の山陰沿岸の事例について実験を行い、水位上昇のタイミング、振幅ともよく再現することに成功した。この再現実験では、解像度約1.25度のJRA-55較正データの代わりに、解像度5kmの気象庁風・気圧データを用いることで再現性が明らかに向上することも分かった。発表では、風・気圧データの解像度が水位再現性に与える影響についてより定量的に示す予定である。