日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS17] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2018年5月21日(月) 13:45 〜 15:15 106 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:森本 昭彦(愛媛大学)、田中 潔(東京大学)、速水 祐一(佐賀大学、共同)、一見 和彦(香川大学農学部)、座長:田中 潔

14:15 〜 14:30

[AOS17-03] 黒潮内側域における異常水温の発生

*郭 新宇1山田 彩加2 (1.愛媛大学沿岸環境科学研究センター、2.愛媛大学理工学研究科)

キーワード:黒潮内側域、異常水温、黒潮再循環

1.はじめに

日本南岸の陸棚斜面域(黒潮内側域)では,黒潮流路の変化により,異常な水温変化が起こることが報告されている.夏季水温の経年変化については,黒潮の安定流路(大蛇行流路・非大蛇行接岸流路・非大蛇行離岸流路)の変化が影響し [Kuroda et al., 2010],夏季水温の数日スケールの変化については,黒潮流路の短期的な離接岸の変化が影響していることが分かっている.短期的な水温変化については,陸棚斜面域の表層に黒潮系貧栄養暖水が進入し,数日間の水温上昇を招く現象,底層に大陸斜面上の富栄養冷水が湧昇進入し,数日間の水温低下を招く現象がある.これらの現象はそれぞれ,豊後水道では急潮 [Takeoka et al., 1993; Akiyama and Saitoh, 1993] と底入り潮 [Kaneda et al., 2002a],紀伊水道では表層斜面水と海底斜面水 [Takahashi et al., 2006] と呼ばれ,土佐湾でも冷水進入現象として知られている [Kuroda et al., 2008].以上より,黒潮内側域における水温変化は,時間スケールに関係なく,黒潮流路の変化と密接に関係していると言える.黒潮内側域における異常な水温変化は,藻場やサンゴの生息域の変化 [Takao et al., 2016; Kayanne et al., 1999; Yara et al., 2009; Yara et al., 2012],赤潮や養殖魚の斃死 [Takeoka, 1990] など沿岸環境に影響を与えることが分かっているが,これまでの研究はどれも事例報告に留まり,現象全体への理解は未だ不明瞭な点が多い.先行研究では,夏季水温に注目したもの,数日規模の水温変化に関するもの,観測データを用いた局所的なもの,水温変化と黒潮流路変化の関係に関するものが多くなされてきた.しかし黒潮内側域の異常な水温変化を系統的に理解するには,季節内の短期変動のバックグラウンドになる数か月から数年規模の水温変化の特徴や,広域の空間的な特徴,水温変化と流速変化との関係を議論する必要がある.本研究では,黒潮内側域の一つである豊後水道及び紀伊水道沖を例に,過去50年間(1964-2013年)における観測データから異常水温発生を検出し,過去31年間(1982-2012年)における再解析データ(FORA-WNP30)を用いて,異常水温発生時の空間的な状況を把握し,さらに異常水温発生の要因を変動周期別に考察した.

2.データと方法

 豊後水道における解析データには,愛媛県農林水産研究所水産研究センターと,大分県農林水産研究指導センターが,毎月1回観測している沿岸定線調査の水温データを使用した.データ期間は1964-2013年の50年間である.観測点は51点あり,データは0,1,5,10,20,30,50,75,100m深といった標準層にある.紀伊水道における解析データには,徳島県農林水産総合技術支援センターと,和歌山県水産試験場が,毎月1回観測している浅海定線調査と沿岸定線調査との水温データを使用した.データ期間は1964-2000年の37年間である.観測点は73点あり,データは0,5,10,20,25,30,50,60,65,75,100m深といった標準層にある.再解析データは,研究開発法人海洋研究開発機構および気象庁気象研究所によって作成された北西太平洋海洋長期再解析データセット(FORA-WNP30)を使用 [Usui et al., 2017].分解能は緯度0.1度×経度0.1度×鉛直54層(水深0.5-6000m),解析期間は1982年1月‐2012年12月,解析領域は北緯28-35度,東経130-140度,物理変数は海面高度・ポテンシャル水温・塩分・流速の月平均値である.FORA-WNP30は,水温の時空間変化だけでなく,1980年代の黒潮大蛇行をはじめとする日本南岸の黒潮流路の変化や,黒潮の流量変化といった流動場も非常によく再現している [Usui et al., 2017].

異常値の定義は,気象庁が異常気象発生数の算出に用いる異常気温の定義を参考にし,月別偏差が標準偏差の1.83倍以上である場合を異常水温の定義とした [気象庁, 2013].

3.結果と考察
観測データより,豊後水道では1980年代を中心に異常低温,1990年代中頃から異常高温が多く発生し,異常水温発生の偏りが見られた.そして豊後水道だけでなく,紀伊水道から紀伊水道沖にかけての海域でも同様の異常水温発生の偏りが見られた.再解析データFORA-WNP30より,1980年代と1990年代中頃以降の異常水温発生の偏りを確認でき,豊後水道沖,土佐湾,紀伊水道沖といった黒潮内側域の陸棚斜面上における水温変動が連動していることが見られた.異常水温発生の要因について,1年以上の周期性を持った長期変動と,1か月以上1年以内の周期性を持った中期変動に分けて考察したところ,異常水温発生の偏りは,長期変動によって生じていたことが明らかになった.長期変動については,高温(低温)時,黒潮流軸位置に大きな変化は見られないものの,黒潮流速が弱い(強い)特徴が見られた.長期変動における黒潮流速変化の要因としては,四国沖の北太平洋亜熱帯モード水の分布変化に伴う,四国沖の再循環流の強弱や,中規模渦の蓄積に伴う海面高度偏差の伝播が関係していることが示唆される.中期変動では,黒潮上流域からの擾乱による黒潮の離接岸や黒潮流速の変化と,水温変化との間に関連性が見られた.沖合の流速変化の要因は様々であるが,長期変動や中期変動で見られた水温変動の力学の解釈は,沖合の流速変化に伴い陸棚斜面上の等温線の傾きを変動させる地衡流調節によるものと考えられる.