日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS17] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2018年5月21日(月) 15:30 〜 17:00 106 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:森本 昭彦(愛媛大学)、田中 潔(東京大学)、速水 祐一(佐賀大学、共同)、一見 和彦(香川大学農学部)、座長:一見 和彦速水 祐一

16:00 〜 16:15

[AOS17-09] 過栄養内湾域における堆積物中の炭素・窒素・リンの鉛直分布

*朝日 俊雅1多田 邦尚1山田 真知子2上田 直子3玉利 俊哉4柳 哲雄5 (1.香川大学、2.福岡女子大学、3.北九州市立大学、4.九州環境管理協会、5.国際エメックスセンター)

キーワード:洞海湾、貧酸素水塊、堆積物、栄養塩

洞海湾は20世紀以降,沿岸の工業の発展が著しかった一方で極度の富栄養化が進行した。その結果1940年代には漁獲量がゼロになり,1960年代には大腸菌すら生息せず,『死の海』と呼ばれるようになった。1960年代以降は水質の改善が試みられていたが2000年頃まで湾奥の栄養塩濃度は高く,夏期には湾奥で恒常的に貧酸素水塊が発生する状況であった。しかしながら2011年を境に湾内で貧酸素水塊の発生が無くなり,水柱・堆積物表層の両方で環境改善が達成されたと考えられる。本研究では,過度に富栄養化していた洞海湾の堆積物において,親生物元素にどのような変化があったかを調査し,堆積物と貧酸素水塊解消の関連性について考察を行った。

2015年5月に洞海湾の湾奥にて柱状堆積物を採取し,全有機態炭素量(TOC),全窒素量(TN),全リン(TP),酸揮発性硫化物(AVS)などの分析を行った。

1997年の環境基準適用後,洞海湾への全窒素(TN),全リン(TP)負荷量は2010年にはそれぞれ1/3,1/5程度に減少し,同時に水柱TN,TP濃度も同期間に1/3以下に減少した(濱田ほか,2014)。水柱では前述のように貧酸素水塊の発生が収まっている。また,TN,TP濃度が減少したことからも洞海湾は過栄養環境を脱したと考えられる。堆積物では,AVSは1994年と比較して,表層0-1 cmで1/10以下に減少し,堆積物が酸化的な環境に向かっていた。一方,TOC,TNは表層から30 cm層まで,鉛直的な変化が認められなかった。TPは表層0-1 cmで0.87 mg/gであり,10 cm層付近まで減少し,以深は0.7 mg/g前後で安定していた。堆積物のC/N比は平均26.6であった。

洞海湾の水柱の懸濁物および沈降粒子は植物プランクトン起源の粒子の影響を強く受けていると考えられており,そのC/N比(6.4;濱田ほか,2014)はレッドフィールド比(6.6)に近い。一方で堆積物のC/N比が26.6と高かったことは,堆積物に対して植物プランクトン由来の粒子の影響が小さく,陸上植物起源のデトリタスなどのC/N比が高い粒子の影響を強く受けていたことを示唆する。また,水柱の化学環境および堆積物のAVSの改善と比して,堆積物のTOC,TN量に鉛直的な変化が無かったことは,洞海湾の堆積物が元来難分解性かつC/N比が高い粒子の影響を強く受けており,植物プランクトンのような易分解性の粒子の影響が小さかったことに起因すると考えられる。

堆積物のAVSが著しく減少していたことから,堆積物中の易分解性成分は減じていると考えられた。TOC,TN含量に反映されていないものの易分解性成分が減少したことで,底層での酸素消費量が減少し,洞海湾水柱の貧酸素水塊発生の解消に繋がったと考えられた。