日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS17] 沿岸域の海洋循環と物質循環

2018年5月21日(月) 15:30 〜 17:00 106 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:森本 昭彦(愛媛大学)、田中 潔(東京大学)、速水 祐一(佐賀大学、共同)、一見 和彦(香川大学農学部)、座長:一見 和彦速水 祐一

16:15 〜 16:30

[AOS17-10] 有明海における冬季赤潮発生メカニズムに関する一考察

*山口 創一1南浦 修也1 (1.九州大学)

キーワード:赤潮、有明海、海苔養殖

九州で最も大きな内湾である有明海奥部河口域では秋から初春にかけて海苔の養殖が活発に行われている.その生産量は日本一でであり,主要な水産業として関連産業も含めると数千億もの生産額を誇る.しかし、近年、赤潮の発生によって栄養塩が枯渇し、海苔の色落ちが発生し,生産の不安定化を招いている.特に有明海奥西部において発生頻度が高い。赤潮の発生は流れや拡散効果など物理的要因とともに赤潮原因藻の増殖特性や水中栄養塩濃度など生物化学的環境が関係する.したがって,その形成機構の解明には物理・生物・化学的な評価が重要である.本研究では海苔養殖施設の影響を組み込んだ数値シミュレーションと現地観測結果を用いて赤潮発生のメカニズム、特にその発生の局所性について検討を行った.
数値シミュレーションにより、冬季の養殖実施下における物理環境を高い精度で再現することに成功した。再現された物理場を基にトレーサー実験を実施した結果、赤潮の高頻度発生海域(奥西部)は海水の滞留時間が長い傾向にあった。観測データに基づく赤潮規模指数(細胞数×継続日数)と滞留時間は高い相関関係にあることが分かった。次に生物化学的要因の検討のために、冬季に赤潮を形成する大型珪藻Eucampia Zodiacusをモデルとして、観測データ(水温、栄養塩濃度、光環境)を基に増殖速度分布を推定した。その結果、有明海奥部においては岸に近いほど増殖速度が速く、沖合ほど低くなる分布が得られた。赤潮の高頻度発生海域である奥西部においても増殖速度は速かったが、赤潮規模指数との相関は検出されなかった。したがって、赤潮発生の局所性には物理的要因が支配的であることが考えられた。そこで、滞留時間を支配する物理要因についてトレーサー実験結果に基づいて検討したところ、奥西部海域は残差流(密度流)が弱く、これにより水塊が滞留しやすいことが明らかとなった。奥西部海域は、浮力の供給(河川水の流入)が少ないため、密度流が発達しないことがその要因と考えられた。さらに海苔養殖の海水の滞留時間へ与える影響を評価するため、数値シミュレーションにおいて、海苔養殖を考慮するケースとしないケースで比較を行った。その結果、養殖が実施されている海域においては滞留傾向を強める結果となった。したがって、物理的な観点から考えると、海苔養殖は赤潮発生を助長している可能性が示唆された。