日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS18] 海洋物理学一般

2018年5月22日(火) 09:00 〜 10:30 104 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:岡 英太郎(東京大学大気海洋研究所)、川合 義美(国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境観測研究開発センター)、東塚 知己(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、座長:川口 悠介

09:30 〜 09:45

[AOS18-03] 気象庁東経137度定線の歴史と研究成果

*岡 英太郎1石井 雅男2,3中野 俊也3,2須賀 利雄4,5纐纈 慎也5宮本 雅俊1中野 英之2Qiu Bo6杉本 周作4高谷 祐介3 (1.東京大学大気海洋研究所、2.気象研究所、3.気象庁、4.東北大学、5.海洋研究開発機構、6.ハワイ大学)

キーワード:東経137度線、西部北太平洋、定線観測

本州南岸からニューギニアの北まで西部北太平洋を縦断する気象庁東経137度定線は、1967年に「黒潮及び隣接水域共同調査(Cooperative Study of the Kuroshio and Adjacent Regions)」の一環として始まり、50年以上にわたり年2回(冬・夏)の観測が続けられきた。得られたデータは一般に公開され、日本のみならず各国の研究者によって利用され、流れと水塊、生物地球化学・生物パラメタ、そして海洋汚染の季節~十年規模変動と長期変化、ならびにそれらとENSOやPDOとの関係の解明に役立ってきた。本講演では137度線の観測の歴史と研究成果の概要を紹介する。詳細については、最近Journal of Oceanographyにオンライン出版されたレビュー論文を参照されたい(Oka et al., 2018, in press)。

1967年の開始時、観測は毎年1月後半に北緯34度から南緯1度まで行われていた(図:137度線の冬と夏の観測位置と深度)。深さは1250mまでで、緯度5度ごとでは4000mまで行われた。当時は各層観測で、転倒温度計で水温を測り、ナンセン採水器による海水サンプルから塩分や化学・生物系パラメタが測定された。圧力は100m以浅ではワイヤーの傾角から、100m以深では被圧・防圧水温計の値の差から求められた。赤道域では地衡流計算を補うため、上層500mを対象に2機測流が行われた。1972年、「海洋汚染防止法」の施行により観測は冬と夏(6~7月)の年2回となり、同時に「バックグランド汚染観測」が始まった。1988年にはCTDとADCPが導入される一方、1989年以降は測線が北緯3度止まりとなった。1995年夏からは標準観測深度が2000mとなり、2001年以降は黒潮域の観測が強化された。1992年から2009年までは春と秋が加わり、年4回の観測が行われた。1994年夏にはWOCE(世界海洋循環実験)の一環として、海底までの高密度・高精度観測が行われた。その後、GO-SHIPが設立され、2010年夏・2016年夏にも同様の再観測が行われた。

 海洋物理学の面では、最初の20年間は主に137度線熱帯域の水温・塩分の経年変動とENSOとの関係、またそれらと台風発生や日本の気象などとの関係が調べられた。最近30年間は亜熱帯を含む全域に研究対象が広がり、また時系列の長期化に伴い、十年規模変動や長期変動を調べることが可能となった。水塊に関しては、主要な3つの水塊(亜熱帯モード水、回帰線水、中層水)の変動とメカニズムが主に調べられてきた。近年の研究を総合すると、これら3つの水塊の十年規模変動はいずれもPDOに伴う黒潮続流と黒潮再循環の十年規模変動に関係しているようである。また、最近はこれら3つの水塊を含む亜熱帯域全体で顕著な低塩化傾向が見られる。海流に関しては、1995年に137度線の観測深度が1250mから2000mに増加したことにより、西向きの北赤道海流の下を北太平洋を横断して東向きに流れる北赤道潜流の存在が明らかとなった。また、PDOと関連した亜熱帯反流域の渦活動や黒潮流量の十年規模変動が、衛星データを含めた解析により明らかとなった。さらに最近、1988年に導入されたCTDとADCPの高解像度データがスモールスケールの物理現象の研究に用いられ、海底地形ならびにParametric Subharmonic Instabilityと関連した乱流強度の分布や、各海域において地衡流と内部波のエネルギー強度が等しくなる水平スケールが求められた。

生物地球化学の面では、大気と海洋の二酸化炭素分圧(pCO2)測定が1981年から始められ、「亜熱帯における海洋表面のpCO2は冬に低く、夏に高いという季節変化を示す」、「亜熱帯域は年平均でCO2の強い吸収域である」、「海洋表面のpCO2は増加トレンドを示す」といった、今では当然の観測事実が世界に先駆けて示されてきた。さらに、1994年からは全炭酸、2003年からはpH、2010年からは全アルカリ度といった他の炭酸系パラメタの測定が行われているが、海洋内部の変動にはまだ未解明の点が多い。このほか、「亜熱帯域の様々な深度で貧酸素化が進行している」、「亜熱帯モード水のサブダクションの十年規模変動に伴い、137度線の生物地球化学パラメタが十年規模変動を示す」などの事実が最近明らかになっている。生物学的研究では、混合層におけるリン酸塩、硝酸塩、クロロフィル、群集純生産が全ての季節・緯度帯で減少トレンドを示し、同時にPDOと関連する約21年の変動を示すことが見いだされた。海洋汚染に関しては、タールボールが1980年前後に激減してその後ほぼゼロで推移し、また油分が長期減少傾向にあるのに対し、浮遊プラスチック類には目立った減少傾向が見られない。