日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[EE] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-AO 宇宙生物学・生命起源

[B-AO01] アストロバイオロジー

2018年5月22日(火) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:薮田 ひかる(広島大学大学院理学研究科地球惑星システム学専攻)、杉田 精司(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、深川 美里(名古屋大学、共同)、藤島 皓介(東京工業大学地球生命研究所)

[BAO01-P09] 硫化金属ペプチド複合体が初期生命の代謝構築へ果たした役割の解明

*五十嵐 健輔1 (1.産業技術総合研究所 北海道センター)

キーワード:生命の起源、硫化鉄、原始酵素、鉄イオウタンパク質、化学進化、アセチルCoA経路

初期生命の代謝は硫化金属が触媒として働き、CO2やCOといった無機物から有機物が合成される独立栄養的なものであったとする説が提唱されている(鉄イオウワールド仮説)。そのような反応を実験室内で模擬した先行研究では、硫化金属を触媒とした水熱反応によりCOなどからC2以上の有機酸などを合成することに成功している。硫化金属であるグライガイト(Fe3S4)は、現生の生物がもつ一酸化炭素デヒドロゲナーゼ/アセチルCoA合成酵素中の鉄イオウクラスターと構造が類似しており、初期生命の独立栄養的な代謝構築においてキーとなる役割を果たしたことが指摘されてきた。しかし、グライガイトを上記の水熱反応の触媒として用いた例は報告さていない。また、触媒としての硫化金属は、ペプチドと複合体(硫化金属-ペプチド複合体)をつくることで安定化し、触媒作用を向上させ初期生命の代謝構築を促進したと推定されているが、どのような性質のペプチドが如何なる機構で代謝構築に寄与したかを示す実験的証拠は得られていない。そこで本研究では、初期生命の代謝を模擬した反応において、グライガイトを含む各種硫化金属の触媒作用についての網羅的知見を得るとともに、様々な硫化金属-ペプチド複合体を合成し、触媒作用が硫化金属単独時よりも上昇することを示す実験的証拠を得ることを目的とする。
研究の第一段階として、冥王代環境で想定される種々の硫化金属(FeS, Fe3S4, NiFe2S4, FeS2, CoS, NiS, ZnS)を対象に、CO2やCOを有機物に変換する触媒能を各種反応条件(20–100℃, pH4–10, 2–100気圧、還元剤の有無等)において調査した。その結果、CO2のH2による還元反応は、主にFeとNiの硫化金属によって触媒され、産物として主にギ酸を生じた。興味深いことにグライガイト類(Fe3S4とNiFe2S4)は最も高い触媒活性を示した上に、ごく微量ではあるものの酢酸の合成を触媒した。同様に、COのHS-による還元反応においても、グライガイト類が最も高い活性を示し、100℃24時間の反応で2–6 mMの酢酸を生産した。これらの反応の速度は温度依存的ではあったが、pHへの明瞭な依存性は見られなかった。また、高圧での反応では有機酸合成反応よりもメタン合成反応が優勢となり、圧力依存的な反応経路の変化が示唆された。以上の結果から、様々な硫化金属の中でもグライガイトは特に高い触媒活性を有しており、化学進化過程において、より重要性の高い硫化金属であることが示唆された。研究の第二段階として、硫化金属-ペプチド複合体を構築するために、グライガイトに特異的に付着するペプチドをファージランダムペプチドライブラリーからスクリーニングした。対象をグライガイトとしたバイオパニング処理を三回繰り返した結果、極性アミノ酸(特にヒスチジン)に富むペプチドが複数得られ、これらはグライガイトへの高い親和性をもつことが明らかになった。現在、グライガイト-ペプチド複合体を構築中であり、触媒活性への変化が見られるか調査中である。