日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-BG 地球生命科学・地圏生物圏相互作用

[B-BG02] 生命-水-鉱物-大気相互作用

2018年5月21日(月) 09:00 〜 10:30 101 (幕張メッセ国際会議場 1F)

コンビーナ:高井 研(海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター)、中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻、共同)、鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、座長:上野 雄一郎(Tokyo Tech.)、鈴木 庸平

09:00 〜 09:20

[BBG02-01] 原始的微生物生態系と暗い太陽のパラドックス

★招待講演

*田近 英一1 (1.東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:初期地球、暗い太陽のパラドックス、メタン

太古代において,太陽はいまよりずっと暗かったにもかかわらず,気候は現在と同程度かむしろずっと温暖だったことが示唆されている.この「暗い太陽のパラドックス」は,一般に,大気二酸化炭素濃度が現在よりもずっと高かったとすることで解決できると考えられている.しかし,実際の二酸化炭素濃度は理論値よりも低かったことが地質記録から示唆されており,温室効果の不足分はメタンの温室効果によって補われていたものと考えられている.しかし,メタンは光化学的に不安定なため,高濃度のメタンを維持することが本当に可能であったのかは不明なままであった.

メタンはメタン古細菌の活動によって生成されるが,その材料となる有機物がどれだけ生産されていたのかが重要な指標となる.当時の海洋基礎生産を担っていたのは酸素非発生型の光合成細菌であると考えられ,電子供与体として当時の環境中に豊富に存在した水素や鉄を利用していた可能性が高い.そうした水素資化性光合成細菌及び鉄酸化光合成細菌を基礎生産者とする微生物生態系,大気光化学反応系,生物化学循環,そして気候形成を考慮した地球システムモデルを構築し,どのような大気メタン濃度が実現されるのか詳細な検討を行った.

その結果,水素資化性光合成細菌のみ,もしくは鉄酸化光合成細菌のみを基礎生産者とする生態系を考えた場合には,メタン供給率は低く温暖気候は実現されないが,両者が「共存」するような生態系を想定すると,メタン供給率が非線形的に増幅される結果,温暖気候が実現されることが明らかとなった.これは,鉄酸化光合成細菌に由来するメタンの光化学反応によって生成した水素が水素資化性光合成細菌に再利用される効果と,メタンフラックスの増大により大気メタン濃度や水素濃度が大幅に上昇するという大気光化学系の非線形応答に起因するものである.

本研究から,原始的な光合成細菌の多様性が,初期地球の気候形成に大きな影響を与えていた可能性が示唆される.さらに,ここで想定した光合成細菌は,酸素発生型光合成生物よりも原始的であることから,宇宙においてはより普遍的である可能性も考えられ,とりわけ年齢の若い系外ハビタブル惑星の表層環境を解釈する上で重要な示唆を与えるものである.