[BBG02-P10] ナノスケール解析による地衣成分—玄武岩反応プロセスの解明
キーワード:地衣類ー岩石相互作用、TEM、STXM、ナノスケール
Introduction: 火山噴火に伴って流出した溶岩の表面には, 地衣類がパイオニアプラントとして定着する(Jackson, 1971). 地衣類とは藻類と菌類が共生した独立栄養生物であり, 岩石への菌糸の貫入による物理的風化や, 岩石と地衣類の代謝産物の反応による化学的風化によって, 岩石の風化を促進する (Chen et al., 2000). Vingiani et al., (2013)は, 偏光顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)によって, ミクロスケールの細粒な生成物が地衣類-溶岩界面で複雑な組織を形成している様子を明らかにした. しかしながら, 地衣類-溶岩相互作用メカニズムの解明には, それらの界面のナノスケール観察や化学状態解析が必須である. 本研究では, 透過型電子顕微鏡(TEM), 走査型透過X線顕微鏡(STXM)による地衣類-溶岩界面のナノスケール解析を行った.
Methods: 伊豆大島の三原山で1986年に噴出した玄武岩溶岩(Nakano and Yamamoto, 1991)のうち, 樹状地衣類(Stereocaulon vesuvianum)が着生したものを用いて実験を行った. 地衣類-溶岩界面の厚片試料を作成した後, FIB(JEOL: JIB-4000, JEOL: JEM-9320FIB)に供試し, 地衣類-溶岩界面の透過電子顕微鏡(TEM)用試料および走査型透過X線顕微鏡(STXM)用試料を作成した. STXMは米国ローレンスバークレー研究所(LBNL)のAdvanced Light Source (BL 5.3.2.2)および分子科学研究所(UVSOR)のBL4Uのもの, TEMは物質材料研究機構(NIMS)の電子顕微鏡(JEOL: JEM-2100F)をそれぞれ用いた.
Results and Discussion: 採取した玄武岩の主要構成鉱物はaugite, plagioclase であった. TEM観察の結果, 地衣類(S. vesuvianum)と溶岩の界面に, 厚さ1µm未満のamorphous silica層が確認された. また, amorphous silica層とその内部に存在するaugiteの界面は原子的にシャープであった. STXMによりCa L-edgeおよびFe L-edge XANESスペクトルを取得し解析した結果, amorphous silica層とaugiteの界面から500 nmの範囲において, augiteに含まれるCaおよびFeは本来の化学状態を維持していた. これらの結果から, amorphous silica層は界面における溶解と再沈殿の連動モデル(Coupled interfacial dissolution-reprecipitation (Hellmann et al., 2012; Ruiz-Agudo et al., 2014) (Fig. 1) に従ったaugiteの溶解に伴う生成物と考えられる.
この溶解反応がS. vesuvianumの分泌物(アトラノリン, スチクチン酸)と玄武岩の主要構成鉱物(augite, plagioclase)との間で生じるかを検証するため, S. vesuvianumの分泌物(地衣成分)を溶解させたElix水に玄武岩の厚片を入れ, 19±1°Cの暗室で30日間静置した. 静置後の玄武岩をTEM観察した結果, plagioclaseの表面ではそれと原子的にシャープな状態で, amorphous silica層がみられた. 一方, augiteの表面ではamorphous silica層は観察されなかった. 一般に, 酸性条件下における溶解速度は, augiteよりもanorthiteの方が速い(Wilson, 2004). したがって, S. vesuvianumの分泌物がElix水に溶解し, pHが低下したことで, augiteとplagioclaseの溶解速度に差が生じ, 相対的に溶解速度が速いplagioclaseの表面では, 界面における溶解と再沈殿の連動モデル(Coupled interfacial dissolution-reprecipitation)(Fig. 1)に従って溶解とamorphous silica層の生成が促進されたと考えられる.
Methods: 伊豆大島の三原山で1986年に噴出した玄武岩溶岩(Nakano and Yamamoto, 1991)のうち, 樹状地衣類(Stereocaulon vesuvianum)が着生したものを用いて実験を行った. 地衣類-溶岩界面の厚片試料を作成した後, FIB(JEOL: JIB-4000, JEOL: JEM-9320FIB)に供試し, 地衣類-溶岩界面の透過電子顕微鏡(TEM)用試料および走査型透過X線顕微鏡(STXM)用試料を作成した. STXMは米国ローレンスバークレー研究所(LBNL)のAdvanced Light Source (BL 5.3.2.2)および分子科学研究所(UVSOR)のBL4Uのもの, TEMは物質材料研究機構(NIMS)の電子顕微鏡(JEOL: JEM-2100F)をそれぞれ用いた.
Results and Discussion: 採取した玄武岩の主要構成鉱物はaugite, plagioclase であった. TEM観察の結果, 地衣類(S. vesuvianum)と溶岩の界面に, 厚さ1µm未満のamorphous silica層が確認された. また, amorphous silica層とその内部に存在するaugiteの界面は原子的にシャープであった. STXMによりCa L-edgeおよびFe L-edge XANESスペクトルを取得し解析した結果, amorphous silica層とaugiteの界面から500 nmの範囲において, augiteに含まれるCaおよびFeは本来の化学状態を維持していた. これらの結果から, amorphous silica層は界面における溶解と再沈殿の連動モデル(Coupled interfacial dissolution-reprecipitation (Hellmann et al., 2012; Ruiz-Agudo et al., 2014) (Fig. 1) に従ったaugiteの溶解に伴う生成物と考えられる.
この溶解反応がS. vesuvianumの分泌物(アトラノリン, スチクチン酸)と玄武岩の主要構成鉱物(augite, plagioclase)との間で生じるかを検証するため, S. vesuvianumの分泌物(地衣成分)を溶解させたElix水に玄武岩の厚片を入れ, 19±1°Cの暗室で30日間静置した. 静置後の玄武岩をTEM観察した結果, plagioclaseの表面ではそれと原子的にシャープな状態で, amorphous silica層がみられた. 一方, augiteの表面ではamorphous silica層は観察されなかった. 一般に, 酸性条件下における溶解速度は, augiteよりもanorthiteの方が速い(Wilson, 2004). したがって, S. vesuvianumの分泌物がElix水に溶解し, pHが低下したことで, augiteとplagioclaseの溶解速度に差が生じ, 相対的に溶解速度が速いplagioclaseの表面では, 界面における溶解と再沈殿の連動モデル(Coupled interfacial dissolution-reprecipitation)(Fig. 1)に従って溶解とamorphous silica層の生成が促進されたと考えられる.