[BBG03-P01] 琉球列島の完新統サンゴ礁堆積物コア中に発見された礁性微生物被殻における微生物の痕跡
キーワード:礁性微生物被殻、完新世、微生物侵食
沖縄本島沖のサンゴ礁上で掘削された完新統サンゴ礁堆積物コア中に,造礁生物化石を被覆する礁性微生物被殻 (Reefal Microbial Crust: RMC) に類似した層が発見された.RMCとは,底生微生物群がサンゴの死骸上に被覆し,炭酸塩鉱物を誘導沈殿することで形成された微生物性炭酸塩岩である.しかし,RMCの形成過程や形成要因などいまだに不明な点が多い.琉球列島で発見されたRMC類似層は,主に高Mg方解石からなり,生砕物や珪酸塩鉱物を含むが,形成に関与したとされる微生物の痕跡が確認できていない.そこで本研究では,電子顕微鏡観察や元素組成分析により,RMC類似層中に微生物の痕跡を発見し,RMC類似層の微細構造の形成過程を明らかにすることを目的とする.琉球列島のRMC類似層に微生物の痕跡が発見されれば,RMCであることが証明されるとともに,微生物群による炭酸塩鉱物誘導沈殿メカニズムを含む微生物岩の形成過程の解明や,RMC形成時の古海洋環境の復元につながることが期待される.
本研究試料は,那覇新港埠頭地区 (26°15’00.6”N, 127°40’42.8”E) で掘削された完新統サンゴ礁堆積物コア (全長8.0 m) から得られた.コアの年代は,深度 7.5ー6.5 m のサンゴ化石が約 7540ー7350 年前(暦年代),深度 4.0 m付近のサンゴ化石が約 7000ー6760 年前(暦年代)である.このコアからRMC類似層が顕著に確認できる5つのスラブ試料を選別し,そこから直方体(長軸約25ー30 mm,短軸約 5.0 mm)の試料を2つ切り取った.これらの直方体試料を5 %過酸化水素水で洗浄し,Milli-Q水で超音波洗浄したものを切断面試料,超音波洗浄後に表面をエポキシ樹脂で固め,研磨した後に5 %塩酸で30秒腐食(エッチング)させたものをエッチング面試料とした.切断面試料とエッチング面試料を走査型電子顕微鏡 (SEM) を用いて,RMC類似層の微細構造や微生物の痕跡等を観察した.またエネルギー分散型X線分光法 (EDX) による元素組成分析(定性点分析)を行い,結晶・含有粒子・含有鉱物の元素成分を調べた.
切断面を観察した結果,RMC類似層表面に葉理状と塊状の空隙の集合体が確認された.RMC類似層部分の空隙とサンゴ部分の空隙内には,直径約20ー100 μmのペロイド状の微小結晶群が観察された.いくつかのペロイド状微小結晶群内に,直径約10ー125 μmの生砕物(サンゴ片や貝殻等)と珪酸塩鉱物(石英やカリ長石等)が確認された.また空隙内でみられた結晶には,犬歯状や"米状"の高Mg方解石,"灰状"のAlとSiを含む高Mg方解石,針状の霰石の4種類が確認された.エッチング面を観察した結果,表面は主にCaを主成分とする白色部分と,CとOを主成分とする黒色部分(樹脂)が確認された.黒色部分の形状はRMC類似層部分に葉理状と塊状,サンゴ部分の空洞内に塊状が確認された.黒色部分にも,生砕物痕や珪酸塩鉱物が確認された.またRMC類似層部分とサンゴ部分の空隙内の塊状黒色部分では直径約2ー5 μmのチューブ状の微生物侵食痕が確認された.
琉球列島産RMC類似層中に,葉理状のストロマトライト様部分と塊状のスロンボライト様部分が確認された.また,切断面試料におけるペロイド状の微小結晶群が存在する空隙は,エッチング面試料における黒色部分に対応し,その内部及び付近にはシアノバクテリアの侵食痕に類似した微生物侵食痕が確認された.以上の結果から,沖縄本島沖で発見された被覆層はRMCであると考えられる。琉球列島産RMCは,微生物によって誘導沈殿した高Mg方解石の結晶によって生砕物と陸源砕屑物が結合した密な部分と,微生物侵食を伴う生砕物とペロイド状の微小結晶群が存在する疎な部分(空隙)とが不規則に累重することで形成されたと考えられる.
本研究試料は,那覇新港埠頭地区 (26°15’00.6”N, 127°40’42.8”E) で掘削された完新統サンゴ礁堆積物コア (全長8.0 m) から得られた.コアの年代は,深度 7.5ー6.5 m のサンゴ化石が約 7540ー7350 年前(暦年代),深度 4.0 m付近のサンゴ化石が約 7000ー6760 年前(暦年代)である.このコアからRMC類似層が顕著に確認できる5つのスラブ試料を選別し,そこから直方体(長軸約25ー30 mm,短軸約 5.0 mm)の試料を2つ切り取った.これらの直方体試料を5 %過酸化水素水で洗浄し,Milli-Q水で超音波洗浄したものを切断面試料,超音波洗浄後に表面をエポキシ樹脂で固め,研磨した後に5 %塩酸で30秒腐食(エッチング)させたものをエッチング面試料とした.切断面試料とエッチング面試料を走査型電子顕微鏡 (SEM) を用いて,RMC類似層の微細構造や微生物の痕跡等を観察した.またエネルギー分散型X線分光法 (EDX) による元素組成分析(定性点分析)を行い,結晶・含有粒子・含有鉱物の元素成分を調べた.
切断面を観察した結果,RMC類似層表面に葉理状と塊状の空隙の集合体が確認された.RMC類似層部分の空隙とサンゴ部分の空隙内には,直径約20ー100 μmのペロイド状の微小結晶群が観察された.いくつかのペロイド状微小結晶群内に,直径約10ー125 μmの生砕物(サンゴ片や貝殻等)と珪酸塩鉱物(石英やカリ長石等)が確認された.また空隙内でみられた結晶には,犬歯状や"米状"の高Mg方解石,"灰状"のAlとSiを含む高Mg方解石,針状の霰石の4種類が確認された.エッチング面を観察した結果,表面は主にCaを主成分とする白色部分と,CとOを主成分とする黒色部分(樹脂)が確認された.黒色部分の形状はRMC類似層部分に葉理状と塊状,サンゴ部分の空洞内に塊状が確認された.黒色部分にも,生砕物痕や珪酸塩鉱物が確認された.またRMC類似層部分とサンゴ部分の空隙内の塊状黒色部分では直径約2ー5 μmのチューブ状の微生物侵食痕が確認された.
琉球列島産RMC類似層中に,葉理状のストロマトライト様部分と塊状のスロンボライト様部分が確認された.また,切断面試料におけるペロイド状の微小結晶群が存在する空隙は,エッチング面試料における黒色部分に対応し,その内部及び付近にはシアノバクテリアの侵食痕に類似した微生物侵食痕が確認された.以上の結果から,沖縄本島沖で発見された被覆層はRMCであると考えられる。琉球列島産RMCは,微生物によって誘導沈殿した高Mg方解石の結晶によって生砕物と陸源砕屑物が結合した密な部分と,微生物侵食を伴う生砕物とペロイド状の微小結晶群が存在する疎な部分(空隙)とが不規則に累重することで形成されたと考えられる.