日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-BG 地球生命科学・地圏生物圏相互作用

[B-BG03] 地球惑星科学と微生物生態学の接点

2018年5月23日(水) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 7ホール)

コンビーナ:砂村 倫成(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、濱村 奈津子(九州大学)、木庭 啓介(京都大学生態学研究センター、共同)、諸野 祐樹(海洋研究開発機構高知コア研究所)

[BBG03-P06] スーパークリーン技術を用いた実験環境下におけるDNA汚染の影響評価

*寺田 武志1諸野 祐樹2星野 辰彦2鈴木 剛人3佐藤 卓広3湯浅 久史3久保田 裕仁3稲垣 史生2 (1.株式会社マリン・ワーク・ジャパン、2.海洋研究開発機構 高知コア研、3.興研株式会社)

キーワード:クリーン実験環境、DNAエアロゾル、汚染除去能力

【目的】近年、分子生物学的技術の発展により、単一微生物細胞から得られた極微量なゲノムDNAからも遺伝子の増幅を行うことで、その超高感度検出が可能となっている。一方で、一般的な遺伝子の増幅方法であるPCRを用いた場合、HEPAフィルターを備えたクリーンベンチ内で作業を行っても鋳型DNAに由来しない増幅産物が得られることがある。これは実験環境からのDNA汚染によるものであり、遺伝子の検出感度が向上するに従い顕著な問題となってくる。そのため、外因性のDNA汚染に対する評価について関心が高まっている。一般的に環境のクリーン度は0.1-0.3 μm程度の粒子の存在数によって定義されるが、それよりもサイズの小さい浮遊DNAについては、これまで明確な汚染評価がされてこなかった。本研究では、浮遊DNAとして人工的にDNAエアロゾルを発生させ、そのクリーン実験空間内外での濃度を定量することで、汚染レベルの評価を実施した。
【方法】DNA汚染レベルの評価を行うにあたり、クリーン空間を保持する装置として、オープンクリーンシステムである興研株式会社製「テーブルコーチ KOACH T 500」を用いて実施した。テーブルコーチにはHEPAフィルターよりもメッシュ構造の細かいFERENAフィルターを採用し、HEPAフィルターとのエアロゾル粒子の濾過効率を比較した。また、人工汚染源のDNAとしてはλファージ由来のDNA断片を用い、濃度を段階的に変えたDNA溶液を含む容器中でバブリングを行うことでエアロゾルを発生させた。エアロゾル中のDNA分子数は時間当たりのDNA溶液の減少量から計算した。テーブルコーチの前後に384ウェルプレートを設置し、30分間暴露することによってトラップした汚染DNAを特異的プライマーによって定量した。
【結果と考察】エアロゾル発生中の空気をサンプリングし、走査型移動度粒径測定装置により分析を行ったところ、DNA存在の有無によって空気中の粒子サイズ、存在量の分布に変化は認められなかった。また、DNAの暴露実験を様々な条件で行ったところ、テーブルコーチ装置通過前で、検出用プレート面積あたり約500 DNA分子が30分間の暴露で通過する条件から人工汚染源であるDNAが検出され始め、5×106分子が通過する条件では384ウェルすべてで人工汚染源のDNAが検出された。一方、5×106分子が通過する条件におけるテーブルコーチ装置後流(クリーン空間)では、プレート上で2ウェルにおいて人工汚染源のDNAが検出されるのみで、それより低濃度のDNAエアロゾル条件では汚染DNAが検出されなかった。本研究で検証したフィルターシステムでは、人工的に製造されたDNAエアロゾルを99.96%の割合で効率的に除去した。従って、テーブルコーチにより粒子分析装置で検出が出来ないレベルのエアロゾル状DNA分子が効果的に補足されることが明らかとなり、浮遊DNA分子の汚染も排除した分子生物学的クリーン実験空間が構築されることが明らかとなった。