日本地球惑星科学連合2018年大会

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG09] 地球史解読:冥王代から現代まで

2018年5月21日(月) 15:30 〜 17:00 コンベンションホールB(CH-B) (幕張メッセ国際会議場 2F)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源研究開発センター)、座長:小宮 剛

16:00 〜 16:15

[BCG09-03] 海洋島弧からみた大陸のつくり方

★招待講演

*田村 芳彦1 (1.海洋研究開発機構 海洋掘削科学研究開発センター)

キーワード:海洋島弧、安山岩、プレートテクトニクス

大陸には様々な組成の多様な岩石が存在するが、その平均がシリカ成分(SiO2)60 %の安山岩である、ということが重要である。火星の地形にも二分性があるが、火星の地殻は玄武岩で形成されている(McSween Jr. et al. 2009, Science 324)。太陽系で安山岩という岩石を持つのは地球だけかもしれない。
初期地球はケビン・コスナーが主演したような、大陸のない、海で被われたウオーターワールドであったに違いない(Arndt 2013, Geochemical Perspectives 2, vol. 3)。現在の海洋底に古いものがないように、初期地球も海洋底だけしかなかったのであれば、プレートテクトニクスによって、常に更新されていたはずである。つまり、逆に言うと、40億年前に初めて「沈み込まない」大陸が誕生した、と考えればどうだろうか。もしそうならば、なぜ、どのようにして40億年前に大陸ができはじめたのであろうか。それまでは、なぜ大陸がなかったのか。それ以降、現在まで、どこで、どのようにして大陸がつくられ、増大してきたのか。初期地球(ウオーターワールド)から現在の地球(海洋と大陸のある地球)へとどのように変貌したのか。この「大陸のつくり方」に関して、2016年に新しい仮説を提唱した(Tamura et al., 2016, Scientific Reports 6, 33517)。
従来は、大陸は安山岩組成をもち、海洋底は玄武岩組成であるから、
地殻の薄い海洋底では玄武岩質マグマが噴出する。 地殻の厚い大陸では安山岩質マグマが噴出する。
ということが定説とされており、つまり、これまでの常識では、大陸形成の材料となる安山岩質マグマは、すでに厚い地殻をもつ大陸に噴出することになり、言い換えれば、大陸形成の材料は大陸でないと手に入らないということになる。これでは、もともと大陸がどのようにして形成されたのかという問題に関しては、鶏が先か、卵が先か、という因果性のジレンマを含んでいた。
しかし、海洋島弧である伊豆小笠原弧とアリューシャン弧において、地殻構造と火山から噴出する溶岩を比較してみると、興味深いことに、30km以上の厚い地殻を持つ場所では玄武岩質マグマが噴出しており、反対に20km前後の薄い地殻を持つ場所からは安山岩質マグマが噴出していることが判明した。さらには伊豆小笠原マリアナ弧の漸新世の時期(約3400万年~2300万年前)、つまり島弧の活動が始まったばかりで、地殻が薄かったと考えられる時期は、安山岩が噴出していることもわかった。これは、これまでの常識とは異なり、
地殻の厚い地域(厚さ30km以上)の火山は玄武岩質マグマを噴出する。 地殻の薄い地域(厚さ30km未満)の火山は安山岩質マグマを噴出する。
ということを示したことになる。この事実は、地殻の薄いときにはマントルにおいて安山岩質マグマが生成され、地殻の厚いときにはマントルにおいて玄武岩質マグマが生成されていると考えると整合的である(図1)。ケルマディック弧においてもこの仮説が検証されている(Hirai et al., JpGU2018)。
マグマのタイプはマグマの源であるマントルの含水量と溶けるときの圧力に強く依存している。地殻の厚さはマグマ生成の圧力と直接に関係する可能性がある。従来多くの岩石学的実験が行われてきたが、圧力が低い場合に、含水マントルにおいて安山岩質マグマが生成する可能性が大きいことが示唆されてきた。本仮説は、プレートの収束境界でも、地殻の薄い海洋島弧でのみ、マントルで安山岩質マグマが生じて大陸を形成していくというものである。逆に地殻が30kmを越える厚い場所では、地殻の下がすでに高圧のため、玄武岩質マグマのみが生成される。玄武岩質マグマは既に存在している安山岩質の地殻を溶かすことが伊豆小笠原弧でも示されている。よって、安山岩質の地殻(大陸地殻)はある程度成長すると、逆に溶かされて、その成長に制限がかかることになる。この考えによると、海で覆われた初期地球においては、地殻全体が薄かった場合、大陸の生成が非常に活発におこなわれたことになる(図1)。一方、初期地球においてマントルは現在よりも高温であり、海洋地殻が30km以上の厚さをもっていたかもしれない。そのような厚い海洋地殻をもった高温の地球においては、大陸をつくる安山岩質マグマは生成されなかったことになる。
図1.プレートの沈み込み帯における地殻の厚さとマントルの部分融解の関係。地殻の厚さがマントル部分融解の深さ(圧力)を制御している、という考えを図示したもの。地殻の薄い場所では,マントルの部分融解によって、低圧において、初生安山岩マグマを生じる。簡単のため、図には示していないが、より深いマントルでは、初生玄武岩マグマを生じる。よって、地殻の薄い場所では、初生安山岩マグマから玄武岩マグマまでの、多様なマグマが生成されることになる。その一方で、地殻が厚くなると、マントルの部分融解する圧力は全体的に高くなり、玄武岩マグマしか生じることができなくなる。厚さ30 km前後が、初生安山岩マグマが生成できるか、できないか、の境界ではないかと考えられる。